パート先の商店で、とあるセールスマンのヒトとごくたまに会う。先輩パートさんのハナシでは、そのAさんは業界トップクラスの腕前らしい。でも、経営者相手の商売だから一般のヒトにはあまり関係ないモノを販売している。
そのAさんが、今日たまたまお店にやってきた。四十代ぐらいかな。セールスマンらしく、いつも如才ない笑顔を浮かべており愛想がいい。ほどよい自信もかもし出している。しばらくのあいだ、お店の奥で店長と話しており、ときおり笑い声が響いていた。
帰り際に、Aさんがワシに声をかけてくれた。「あ、手、よくなったんですか?」
えーっ? びっくり! ここしばらく手のサポーターをはずして仕事していたんだけど、そんなことまで気がつくなんて、さすがはトップセールスマンだ。
ワシがAさんと話をするのは、たぶん4回めぐらいだけどね。よくもまあ覚えているなあと感心しつつ、ワシ「はい、ちょっとよくなってきましたよ」と答えると、Aさん「よかったですね。ピアノ、もう弾けますか? 一日どのくらい練習しているんですか?」
はあああっ?!
ワシ、さすがに絶句したわ。そういえば、Aさんにはじめて会ったとき、チラッと「ピアノ弾いてる」ってハナシをしたことをうっすら思い出した。でも、ソレって2ヵ月ぐらいまえのことなんだけどっ?!
ものすっごく仰天したけど、いや、もしかしてAさんは音楽にくわしいのかな?と思って、「はあ、せいぜい2時間ぐらいですよ」とポロッと言ってしまった。
するとAさんは「それはすごいですね。コンクールとか出るんですか?」
ひょえええっ?!
ワシ「あ、あのう、Aさんはピアノのことをよくご存じなんですか?」
「いえ、ぜんぜん知りません」
「え? でもふつうそんな……そういうふうに思わないですよね?」
Aさん「はは、そうかな?ってなんとなく思ったんですよ」
うわあ……、トップセールスマンのヒトって、相手の「最大関心事」に瞬時に切り込むことができるんだっ!
コレは参ったわ。てか、恐ろしくなってきたわ。まるでカウンセラーみたいやわっ!
そういえば、以前カウンセラーN先生が「カウンセラーになるヒト、いろんな前職をお持ちだけど、たとえば元営業マンとかってヒトはやっぱり強いんです。自分で稼いできた実績があるから、お客さんの取りかたがウマい。カウンセラーやコーチング、コンサルでもウマくいく」と言われていた。
しかし、そこまで見透かされるとソラ怖ろしい。いま現在ワシは、毎日どれだけ練習できるか?ってことしか考えていないのだが、なぜわかるっ?!
いちばん驚愕したのは「自分自身のことを話さない」ということだ。おおむねふつうのヒトは自分のことを話したくなるものだ。けれども、さすがにトップセールスのヒトはまったくちがう。話のフォーカスはつねに「相手」なのだ。そして「相手がよろこんで話したくなる話題」を的確に探り当てて提供してくれる。
そういうAさんの話しかたに嬉々として応じたヒトが、たぶん数百人ぐらいおったろうなあと思って、ワシはやっぱりアタマを抱えたくなった。それこそオノレが将来カウンセラーになりたいんで、Aさんを「師匠っ!」って拝みたくなった。
それにしても、毎日驚かされることばかりだ。ええと昨日はなんだっけ? そう、昨日はレッスンで先生のホンネをお聞きして、やっぱしアタマ抱えてたんだよね。今日はAさんがまたブン殴ってくれたね。
毎日いろんなヒトからグサグサされまくってて、ああ、ヒトとの出会いってこんなにもスリリングなんだよねえ。