酔いの果てに出てきたホンネ|パートの先輩と大ゲンカ その5

宴会がお開きになったとき、パートの先輩Fさんは立ち上がるとゆーらゆーら揺れており、両脇をふたりで支えないといけない状態だった。メンバーは二次会に行くひと以外で、めいめい送るひと、送られるひとがあらかじめ決められていた。

だれかが私に「春子さんのクルマ、店の前に横づけして」と言う。そうだな、Fさんは駐車場までも歩けそうにないもんな。あわててクルマを取りに行って、さて困ったなと思いつつ、こんなときって事故起こしそうと不安になりながら店まで戻る。

クルマの外に出たら店長さんを見かけたので、私はそばに寄ってこそっと「Fさん、自分のウチからA駅までクルマで来たらしいですよ。Fさんは『駅からは自分のクルマ運転して帰る』って言ってますけど、ダメですよね?」

店長さん、あんまりシャキッとした反応じゃなかったけど、「うん、ウチまで送ってください」と答えた。


まだまだ嬌声を上げてはしゃいでいるFさんを助手席に押し込む。Fさんはクルマの窓をさっさと開けて、「みんなぁ~、ばいばぁ~~いっ!」と身を乗り出して両手をブンブン振り回していた。

私は頃合いを見計らって、クルマの窓を閉めて、Fさんに「シートベルトだいじょうぶですか?」と尋ねる。
Fさん「だいじょぶ、だいじょぶ、今日はまだだいじょーぶっ! 今日はまだ覚えとるもんっ! まだいける。これがな、なんのことかぜんぶ忘れとるときあんねん。まえな、友だちに動画撮られてな、そしたらな、あたし、周りにだれもおらんのにひとりでしゃべってんねん。ヒドいやろ? みんなほったらかしやねん。ほんでもあたしひとりでしゃべってんねん、ひゃひゃひゃあ!」

いや、いまもそうやけどと思いつつ、Fさんに「住所どこですか?」と訊いたら、すんなり教えてくれたのでナビをセットできた。おお、これはよかった! これならFさんの自宅まで連れていけそうだ。

Fさんはしばらくハイテンションでしゃべりまくっていた。私は私で「傾聴トレーニング」に励む。Fさん、さいしょのうちは同じことばかり話していたが、30分もするとある友だちの悪口を言い出した。


あれ? ちょっと酔いがさめてきたのかな? 「悪口」というのはおおむねそのひとの「シャドー」だから、ふうん、どんな要素に対して悪口を言っているんだろう?と思いながら伝え返しをしていた。

ええと、「シャドー」というのは「そのひと自身であるのに、自分が見たくなくて切り離してしまった自分」である。「自分が『そうであってはならない』と捨ててしまった自分」である。わっ、心理のこと知らないひとにはなんのこっちゃわからんよね?

たとえばさ、自分がダイエットしていたとする。甘いモンとか厳重に避けていたとする。ほんとは食べたいのにずっとガマンする。そしたら、目の前でケーキばくばく食ってるヤツみたらハラ立つよね? そのケーキ食ってるヤツが「シャドー」なんだよ。

なので、だいたい「こいつ、ハラ立つなあ、イライラするなあ」ってヤツは、まちがいなくシャドーなのだ。でも、自分ひとりではなかなか気づけないけどね。そりゃ「見たくなくてフタした自分」だからかんたんには自分で見えない。


あ、そうそう。心屋仁之助さんは「痰ツボの痰だ」って言ってたなあ。痰ってもともと自分のなかにあったのに、吐き出したらとたんに汚くなって「もとは自分にあった」なんて思えないよね。

でも、シャドーってもともとは自分自身だから、シャドーと統合しないといけない。「それも自分なんだよね」と和解しないといけない。そうでないと、いつまでも「シャドー」として「イヤなひと」があらわれてゴタゴタしつづけることになる。で、心屋さんは「痰ツボの痰、飲ませるよー」とか言ってた。おえ。

さて、いまFさんのことは「他人事」だから、しばらく話を聴いていたら、ああ、そのイヤな友だちは「Fさんのシャドー」だなとわかった。しかし、Fさんのトーンはだんだん変わってきた。

Fさん「そいでな、あたしそのコ、イヤになって2年ぐらい会わへんかってん。私にもこんなことしたしな。でもな、しばらくしたら、あのコみたいにすんのもアリかなあ思てん。そういうやり方もアリかもしれへんって思ってん。せやから、いまはもう仲ようしてんねん」


具体的な内容はここに書けないけど、それはなかなかフトコロの深い考えかただった。すごいな、Fさん、べつにカウンセリングなんて勉強しなくても自分ひとりでそんなふうに考え変えられるってえらいなあ。

そうだなあ、私はFさんが、というかだれでもいいけど、そんなふうなちょっと輝くようなものを見たくて、傾聴してるんだったなと思い出した。

Fさんの話はあっちこっち飛んでいるようでも、同じテーマが見え隠れしていた。へええ、酔っていてもそうなんだなあ。てか、酔っているからこそそういうのが出やすいのかな?

私はただ「そうなんですねえ」とかキーワードを伝え返ししているだけなのに、Fさんの話は勝手にゴールに近づいていった。そのときにはFさんはずいぶんと落ち着いて話していた。そして、「こんなことがあってん、だからあたしはこのひととぜったい結婚するって思てん」と、ご主人とのなれそめの話をうれしそうに話しはじめた。

もうお子さんもみんな独立したひとなんだけどね。いろいろあったんだろうけど、それでもダンナさんのことが好きなんだなあ。へえ、すごいなあ、行き着く先が「愛」というのがすごいことだなあ。

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