勝手に「あこがれ」が先走る|身のほど知らずにはなるなよ

むかしから漠然と思っていたけど、「ピアノの基礎力」って、絵でいうところの「デッサン力」に似ているような気がする。

私は絵ってぜんぜん描けないが、中学のとき、マンガがうまい子がおった。

抜きん出てうまい子がふたりもおって、そういう子って独学でもデッサンしているし、遠近法も学んでいたりする。うまくなりたいって意欲があるから、小学生のときから自発的にデッサンしていたらしい。すごいよね。

そしたら、そんな子たちはマンガの雑誌を見ても、いちいち「デッサン狂ってる」ってわりと気にするんだよね。いや、私が見たら、プロの漫画家のデッサンなんてちってもわからなかった。

でも、その子たちに「ほら、裏返して透かしてみるとわかるよ」とか「ほんとは腕がこういう線になって、すると手の向きはこうだから」とか何度も教えてもらっているうちに、絵が描けない私でも、だんだん正確なデッサンがどういうものかわかるようになってきた。


わかるようになると、たしかにデッサンの狂いはそこそこ気色悪い。まあ、マンガはストーリーがよければおもしろいし、さいしょのうちはデッサンがアレな漫画家でも、売れてくるとどんどんうまくなる。

それでも、うまい子が見るとまだまだツッコミが入る。私も勉強になる。その子たちのおかげで、私もマンガやイラストなんかのデッサンのゆがみが少しわかるようになった。

さて、私は絵なんてまるっきり描けないのに、職業訓練でデザインの講座を数ヵ月受講したことがある。なんとなくあこがれがあったからだ。そんな程度でハローワーク経由で税金まがいで学校行かせてもらってすいませんでした。

で、その講座では絵の基礎もひと通り習うことになっていた。デッサンもやった。「ティッシュの箱」を描いたよ。いちおう箱みたいなのは描けたけど、ゆがみが壊滅的だった。そうすると、先生が基本的な輪郭を描いてくれる。いかに自分のデッサンがゆがみまくっていたかを思い知らされる。


しかし、受講生のうちのひとりで完璧なデッサン力を持つひとがいた。そのひとの描く絵は、あきらかに次元のちがうプロレベルの絵だった。どうやらそのひとは美術高校出身らしかった。

美高出たひとと話する機会なんてまずない。私はこっそりそのひとにどんな勉強をしてきたのか尋ねてみた。

「美術高校って、一日どのぐらい絵を描くんですか?」
「う~ん、だいたい8時間ぐらいですね。そりゃ10時間以上やってるひともいたけど、私は8時間かな。ウチに帰ってからも課題を描くからね」

当時私は、ピアノのレッスンを再開していなかったものの、その話を聞いたとき、まるで音楽高校みたいだなあと思った。すまん、音楽高校もよう知らんねんけど、たぶんピアノとか8時間は弾くよね。

はああ、美術でも音楽でも基礎力をつけるためには猛烈に勉強せんとあかんねんなあと感心した。


それでね、いま思うんだけど、自分のピアノって「基礎力が欠けているアレなピアノ」だよねえ。まるでデッサン力に欠けているヘタな絵とおんなじだ。

で、自分の気もちに正直になると、もうちょっとマシになりたい。そのためには、もうちょい基礎をちゃんと練習したい。いや、これまでその基礎をやってこなかったから、ヘタのまんまなんだよ。ちっとも速く弾けないし大きな音も出ない。

そんなに何時間も練習はできないが、でもやっぱり、あんなふうにたしかなデッサンで好きなように自在に絵を描いていたあのひとみたいになりたいなと。

ああまた、あこがれちゃった。

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