重大なことに、はじめて気がついた。
あのさ、私は「食べること」に関心が薄いので、「その重大なこと」がわからないまま、還暦間近になってしまった。
「その重大なこと」とは、
ということである。
ああ、ほんまに「わからなかった」よ。
「食べているから → 生きられる」ってことすら、よくわかっていなかった。
私にとって、食事とは「めんどくさいけど、しかたなくやらないといけないコト」のひとつだった。
まあ、なにかを食べて、多少は「おいしい」と思うときもあるが、どうだろう?
「おいしさの感度」って、かなり個人差があるかもしれない。おそらく、ふつうのひとたちは、私よりもはるかに「おいしさ」を感じているんじゃないか?
なので、私はときどき夕食を食べるのを忘れる。スーパーの総菜を買ってあって、冷蔵庫に入れてあるのに、なんだかんだしているうちに忘れて、そのまま寝てしまう。
しかし、たまの外食は、ちょっと楽しみだ。だから、誕生月の4月、どこかに外食に行こうと思っていたのだが、延ばし延ばしになって、もう8月である。
こんなにも実行できないのは、やはり関心度が低いからだろう。
「食」に関しては、まだなにか「欠如」しているのかもしれない。
私は、中学生になったころ、はじめて「味」の存在に気がついた。
それまでは、食べ物ひとつひとつに「固有の味」があることがわからなかったのだ。
生まれてからずっと「味を知らない状態」だと、「味があること」もわからない。もともと「知らない」から、べつに悩みでもなかった。
しかしあるとき、「味があること」がわかった。モノクロの世界がカラーに変わったかのように新鮮だった。
いまから3年前、56才のとき、車中泊で「北海道80日間放浪」をやった。
放浪中は、意識して、できるだけ「ごちそう」を食べてみるチャレンジをした。
放っておくと、全食コンビニでテキトーに済ましてしまいそうだった。
そこをあえて、「まだ元気なうちに、『食べる楽しみ』も開拓しよう」と、ガイドブックで調べて、人気のあるお店を訪れた。
やってみたら、おもしろかったし、それなりにおいしかった。
でも、もう一度やるか?といえば、いやあ、もう気が済んだから、べつにいいかな。
ふだん私が、ロクな食事をしていないことを、妹はよく知っている。
「また納豆だけじゃダメだよ。ちゃんと食べてる?」と心配してくれる。
それでも私は、「ちゃんと食べる」ということを、やっぱりわかっていなかった。
ところが、だ。
たまたまYouTubeで、「タンパク質」についての解説動画を見たのだ。
そしたら、「人間の身体は、タンパク質のかたまりです」って言ってて、びっくらこいたの。
ああ、たしかにソレは知識として知っていたけど、タンパク質って「まず食べないとダメじゃん!」って、生まれてはじめて腑に落ちた。
なんとなく、「あんまり食べないこと」が、「ごく自然」でデフォルトになっていた。
「食べ物が、身体を作っている」という意識が、すっぽり抜け落ちていた。
そりゃ、あかんよねえ。
だから、ずっと元気出ないんだよねえ。
やる気もないんだよねえ。
「食べないほうがいい」っていうのは、じつは「生きることを否定」していて、徐々に”あちら側”へ寄って行っていることなんだ。
びっくりしたよ。
自分では、「生きるのを楽しんでいる」つもりだったのに、ああ、どこかで否定していたんだねえ。
由来は、またもや母ちゃんだな。
あのひと、料理が大キラいで、まあほとんど作らなかった。
子どもがなにか食べたそうにすると、ロコツにイヤな顔するんだよね。
まあ、母ちゃん自身も、自分の母親(実母+継母2人)が全員料理ギラいだったから、ムリないけど。
私が中学高校のとき、一日百円を昼飯代としてもらっていた。少なすぎ。いつも腹ペコ。
そうそう、母ちゃんは、私と妹とでは、だいぶん扱いかたがちがったので、こないだ妹に訊いてみた。
母ちゃんに、弁当作ってもらったこと、ある?
一回もないよ。
中学も高校も、みんなお弁当食べてるのに、
私だけ、パン買って食べてた。
わあ、T子ちゃんもそうだったんだね。
私も、まったくなし。
そういや、中学の遠足かな、担任の先生が駅弁買って、
こっそり渡してくれたことがあったよ。
私は、百円ってことはなかったけど。
まあ、すごくケチッていたから、もらいにくかったよ。
ウチは、たしかに貧乏だったけど、なんちゅーか、母ちゃんからは、「弁当なんか、だれが作るかよっ?! あほんだらっ!」みたいな怨念が噴出していたな。
それはまあ、自分(母ちゃん)のことを、3人の母親(私にとっては祖母)が、だれひとり大切にしてくれなかったからなんだよね。
いやあ、久々に私も「母ちゃん恨み節」が出ちゃったけど、ソコはもう卒業さ。
「母ちゃん恨んで、ハンガーストライキ」なんて、はあ、何十年ダダこねているんだか。
で、私は、もうしばらくピアノを弾きたいのに、ちゃんと食べないと、「弾けなくなる日」が早まっちまうよ。
てか、ロクなモン食ってないのに、よくまあ、指やら腕やら動いているねえ。
さあ、わりとデカいビリーフ「食べることは、良くないことだ」をリセットできた。
すっきりしたよ。
これからは、「きちんと、栄養があるもの」を食べることにしよう。
そう、「身体を作る原材料」を調達して、「人体という化学工場」に運びこむのだ。
その工場で、原材料を分解してもらい、あらたに、ホレ、まず指とか腕とか作ってくれっ!
ピアノがよくよく弾ける筋肉だの筋だの、そいつを最優先で頼んますわ。