母の「お風呂の悩み」が再発した。
え?「訪問入浴介護」で、デカいバスタブ持ち込んでもらって、全身浸かって、3人に手厚く介助してもらい、極楽だったんじゃねーのっ?!
化粧水乳液もつけてもらい、手の爪足の爪も切ってもらい、耳掃除までやってもらえて、わっ、これ以上なにをお望みですか?
さいしょの1回2回は、問題なかったのよね。
ところが、5回目で早くも「むずかしい問題」があきらかになった。
訪問入浴介護は午前10時から約1時間だ。
ところが、その入浴以降、母が疲れ切っている。
憔悴しきった様子で、うつろな表情だ。
私は、母がそこまで疲れている原因に心当たりがあった。
母の枕元で、こう話しかけてみた。
「おふろのヒトたちに、気を使いすぎてしんどいんじゃない?」
母は即答した。
「そう。そうなの。話しかけられたら、返事しないわけにいかないし。
みんなが話しかけてくるし。
いちいち返事するのが、もうしんどくてたまんないの」
やっぱりそうだったか……
入浴中の会話は、私の部屋にも聞こえてくる。
みなさん、ワイワイにぎやかに、母に話しかけては笑い声を上げている。
前々回だったかな。だれかが母に向かって、
「明るくて楽しいヒトねえ!」と感心したように大声で言われていた。
うわ、エラいホメことばを言っちゃったもんだ。
まさにその「明るくて楽しいヒト」という勲章を欲しいがために、母は長年他人に対して「演技」をしつづけてきたのだ。
年齢よりもしっかりして若く見られたいという願望もある。
けどさ、もう90歳ですぜ?
しかも要介護4で胃ろうで、テレビ見る元気もなくなって、そろそろ限界なんだよね。
私「ほんとは、なんにも話したくないでしょ?」
母「そう。なにも言わずに、ただ洗ってもらえたら、どんなにラクか」
私「うんうん、でもいまさら『いいヒト』の看板降ろせないし」
「そのとおりよ~。春ちゃん、よくわかるわね」
「う~ん、私から、母ちゃんのホンネを、ケアマネさん経由で伝えてもいいんだけどね」
「いや……もうちょっと考えてみるから」
「まあ、そうだよね」
母が「いいヒト演技」を身に付けたのは、7歳ぐらいのときかな。
実母が家出してしまい、その後継母が来てから、継母に気に入ってもらいたい一心で高等技術を磨いたのだ。
その戦略で生き抜いてきて80年以上。
いまさら「不愛想」なんて看板に替えられないよな。
ちなみに、去年はヘルパーさんひとりの入浴介助でも、おなじ問題で撃沈している。
そのころはまだ、自宅の浴室でシャワーを浴びられたので、週3回ヘルパーさんに来てもらっていた。
このときも、ヘルパーさんに気を使いすぎて、過剰なお礼や謝りや、聞き役に徹しすぎたりで疲弊してしまった。
何名かのヘルパーさんが入れ替わるが、そのうちのひとりは、母が「話を聞くのが大好き」とカン違いして、入浴が終わってから、母の部屋で自分の話を長々話し込んだりしていた。
母ちゃん、終始聞き役しかデキず、結局「ヘルパーさん、一切お断り」になっちまった。
ちなみに、母は私の話もよーく聞いてくれるよ。
いいお母さんです、何歳になっても。
でも、他人に対して気を使いすぎるのは、やめられるといいね。もうしんどいから。