お母さまのお話が、たまにヘンになってきた。
うむ、とうとう認知症がやってきたか、と感慨深い。
ほぼ寝たきりだと、やっぱりこうなっちゃうのか、それとも、まあべつの要因なのか。
原因はともかく、徐々にソレっぽくなってきたよ。
とくに、午後にコールチャイムで呼ばれて行くと、いきなりヘンな話になりがち。
数日前は、
母「なんかボンッて音がして……
あっちの線が、オカしいから、見てきて」
私「あっちの線?」
「そう、あっちの線……ごめんね、線だけじゃわからないね」
「ふふ、なんの線かな?」
「こんな長い線。それがなんか、前に、その線があって、小さいのにつながっていて」
もしかして、窓際にある、短めの延長コードのことかな。
私がそれをはずして持って行ったら、
母「それそれ!」
私「うん。それで、ボンッて音は?」
「いや……それは、もういい、もう忘れて!」と、両手を振りながら笑う母。
私「このコードがどうしたの?」
母「う~ん、それも忘れちゃった、もういいわ~」
なるほど、自分でもヘンになってるのが、まだわかるんだなあ。
今日の午後も、またチャイムで呼ばれて、すぐに行くと、
母「いま、このラジオを聞いているけど、この音源って売れるの?」
むう、音源を売るとな?!
てか、いま母はベッドに寝ているだけで、ラジオなんか聞いていない。
母が指差しているのは、ベッドの柵だ。
どうやら、柵のそばにラジオがあるような気がしているらしい。
おお、いよいよ「らしく」なってきたと、色めき立つ私。
私「音源を売るって、もしかしてラジオを売りたいの?」
母「う~ん、そうかな?
でも、売ったら聞けなくなるし、けど、新しいラジオ欲しいかな。
だって、いま聞いているのは毎日放送がキレイに入らないから」
ああ、そうだった。
母は、むかしからラジオをよく聞いていて、去年ココに引っ越してきた当初も、イスに座ってラジオを聞いていた。
で、毎日放送、この部屋ではたしかにキレイに入らなかったのよ。
母は、それを思い出しているうちに、新しいラジオならキレイに聞けるとカン違いしたようだ。
とりあえず私は、
「もともとココの場所は、毎日の電波がとても入りにくいんだよ。
それは、建物とか地形で、入るかどうか決まっちゃうから、新しいラジオでも、やっぱり入らないよ」
すると母は「ああ、わかったわかった。どんなラジオでも、それはムリだね」と納得してくれた。
いまのところ、目立って「ヘンなお話」は、このふたつ。
まだ、たとえば、昨日あった出来事とかは覚えていてだいじょうぶ。
しかし、あ、そうだ。
時計を見て「7:00」だと、朝の7時か夜の7時か、わからなくなったのも2回あった。
北向きの部屋でカーテンを閉めているせいもあるけど。
まあ、脳ミソもトシ相応に衰えても、それはしかたがない。