あまりうぬぼれてもいけないが、こと「母の好み」に関しては、そこそこ自信があった。
まあ、母は好き嫌いがすぐ表情に出るからね。
あ、それは私自身もそうですな。
モノゴトを「好きか嫌いか」で判断しまくるのは、親子ともどもおんなじだ。
だが。
……。
……。
……失敗した。
母ちゃんは、こんどの新居が「嫌い」なのだ。
いや、正確に言うと、母は「ある特定の地域」をものすごく好んでいて、結局その地域以外は「断じて好きになれない」と判明した。
ちなみに、いまの新居は、その「偏愛地域」から6.4kmの場所だ。
で、同じ市内。
べつに近いやん?などと、私はタカをくくっていた。
母はそもそも自力で移動できず、月に一度病院へ行くだけ。
だったら、偏愛地域からあるていど近い、こんどの新居でじゅうぶんじゃん?
私はといえば、こんどの引っ越しは、旧居から120km離れた地へ移動。
母が偏愛している「スポット」近辺で、まずは新居を探したものの、家賃が高すぎてねえ。
あのう、母ちゃんは「大都会の真ん中」がお好みでして、そりゃできるだけ望みを叶えてあげたかったが、あまりにも家賃が高すぎるのでムリ。
なので、「偏愛地域」から6.4km南下したところを、新居にチョイスした。
だが、母はやっぱり「この場所は好きになれない」と言う。
そりゃあ、サ高住暮らしよりはマシ。
けれども「ココに住んでいることに違和感を覚える」らしい。
母がココへ引っ越して来て、ちょうど1ヵ月。
あちゃ~、1ヵ月だけで、もうイヤになっちまったか!
てか、引っ越してきた当日から現在まで、いちども「この場所がいい」という顔をしていなかった。
そうそう、それは初日からわかっていたから、まあ、しかたないね。
やっぱりアノ「偏愛地域」から離れたくないのだ。
メリットについては、母もちゃんとよろこんでくれている。
とくに、サ高住を退所できたメリットは大きくて、もう他人に気を使わなくてよくなった。
いまはまだ、週3回の入浴介助でヘルパーさんに来てもらっているが、これも最終的にはゼロにする方向。
とまあ、徐々に母の好みに改善していっているが、いやいや、「この場所そのものになじめない」ってのは大問題だ。
とっさに連想したのは、「色の好み」。
私も母も、「好きな色、嫌いな色」に非常に敏感でこだわる。
たとえば、介護用シャワーチェア。
介護用品スタッフさんが、お試し用でオレンジ色のチェアを持ってきていた。
母はオレンジが嫌いで、私も負けず劣らずオレンジが大嫌い。
お試しでしょうがないから使うけど、私だって風呂場で目にするたびに、イヤな気分が湧いてくる。
なので、いま「ココの場所に住む」ということは、母にとって、まるで「オレンジ色のイスに無理やり座らされている」ようなゲンナリした気分なんだと思う。
それは、ツラいことだよねえ、だれにとっても。
私「だったら、また引っ越したらいいよ。
アソコのあたりで、母ちゃんがほんとに住みたいところに住もうね」
母は「でも……」と言って、下を向いてしょんぼりしていた。
たしかに、またイチから物件探して、やれまた引っ越しってのもタイヘン。
しかしそれでも、「好きに思えて、しっくりできる場所に住むこと」は、いっちゃん大切だと思うよ。