私は「見栄を張りたい」から、「音大に行く」だの「カウンセラーになる」だのほざいていたわけだが、それってつまり「ほんとは一円玉だけど、ちゃいまんねん、ホレがんばったら千円札になれたよ! 一万円札にもなれるぜっ!」とやりたかったのだ。
まあ、他人から「あ、すごいね、一万円札ならすごい! 欲しい!」と言ってもらいたかった。だって、ふつうみんな一円玉より一万円札が好きでしょ? 一円玉なんて見向きもされないけど、一万円札は何十枚でも欲しいじゃん?
一生パートで使いモンにならなくてウダツのあがらない人生を、なにかで一発逆転したかった。それは一万円札になったら叶うと思った。一万円札になればみんなに欲しがられると思った。そうなったらしあわせになれるはずと思っていた。
でも、気づいた。
おまい、一円玉はなにをどうがんばっても一万円札にはなれねーじゃんw
そうだよね。ソコ、やっとわかったわ。
一円玉に生まれついたら、一生一円玉やったわ。
一万円札は、一万円札に生まれついたひとにしかできない人生で、そんなの、一円玉があこがれてもぜったいムリだった。
アルミは紙になれない。アルミと紙の価値も決められない。たまたま「お金というかたち」なら、万札のほうがおもくそ好かれているだけに過ぎない。
で、わかった。
一円玉がしあわせになるためには、まず「いつか一万円札になろう」をやめるべきだと気がついた。
そりゃムリじゃんw なれねーからっ!
あ、はい、やめます。
そう、そいでええ。で、おまいはなにになりたいねん?
前も訊いたけど、つぎの三つのうち、どれがええねん?
1.音大生
2.カウンセラー
3.年金受給者
あ……、そ、それは、あのー、そのー、……やっぱり年金がいいっす。
ホレ見ろ。無職でブラブラがいっちゃんええんやろ?
あ……、はい……、やっぱ、そうっす。
なんで音大生やカウンセラーがイヤなん?
あ……、はい……、時間とか……やらないかんことで縛られるのがめっちゃイヤで……、そういうのぜんぶダメっす。
ホレホレ、要するに働きたくねえんだろ? 勉強もしたくねえだろ?
はあ……、そうっすねえ……、生まれてこのかた、タダのいちども「働きたい」と思ったことねえっす。365日休みがパラダイスなんすよ。
そんなナマケモノは、ナマケモノらしくなんもせんでええねん。
はあ……。
ナマケモノが見栄張れるわけねえだろ? だからしんどいんだよ。できねえクセにやろうとすっから。
はあ……。
だから、おまいはあと一年でええねん。
はあ? なにを?
パートだよ。おまい、「毎日地獄だ、刑罰だ!」って叫んどるやんけ?
はあ……。
それ、あと一年でシャバに出れっから。
はあ?
おまいがいっちゃんなりてえのは「年金受給者」だろ?
はあ。
だったら、一年後60才から「年金繰上げ受給」しろや。
!!!
額が減るとかつべこべ抜かすなよ。年金受給者になりてえんだろっ?!
は、はあ、たしかに。
だったら、いっちゃん早うそうなれやっ!
意外とね、繰上げ受給してもそんなに減らない。試算してみたけど、あのぐらいならイケる。パートと大差ない。ふう。
ならば、あと一年で私の夢は叶うわけだ。
「生涯かけての夢」が「年金受給者になること」だとは思いもよらなかったけど、でもほんとにそうなりたいもんね。まるっきり働きたくないもんね。
この「働きたくない」という気もちは「とても良くないことだ」と思い込んできたけど、べつにいいも悪いもなかった。
ふつうに制度として「60才からでもブラブラできまっせ」コースが設定されていた。そんなふうに生まれついていた。そういう僥倖にあずかれる運命だった。