父の献体後火葬 その4

やがてSさんと斎場スタッフさんが私を呼びに来たので、階下に降りる。火葬に要した時間はちょうど1時間だった。スタッフさんに例の「炉の鍵」を渡すと、おもむろに開錠されて、中からガラガラと父の遺灰が引き出された。台の上には白じらと骨だけが散乱していてなかなかインパクトのある光景だ。しかしずいぶんと少ない骨の量だなあという印象。

開けたところを遺族に見せるのはほんの一瞬で、あとは「こちらでお待ちください」とお骨拾いをする部屋へ案内された。そこにはすでに、大きな骨壺とそれを納める箱や包みなどが用意されていた。ここの斎場はまだ新しい施設のようで、最期の別れにふさわしい荘重なインテリアが施されていた。御影石のような黒い鏡面仕上げの床、ダークブラウンの木製の壁、そして遺骨を拾う台だけが白く艶やかにダウンライトで照らされており、周囲はほの暗い。

47年前、母の養母のお骨拾いを思い出すと、確か野外で屋根がある程度の殺風景なところで、わびしくお骨を拾っていた。まあ、そのときから半世紀も経っているから当然かもしれないが、こんなにおごそかな部屋で父のお骨を拾えるのはうれしい。

やがてお骨が運ばれてきた。明るいところで見ると、ほとんどの骨が真っ白で美しく、なんとまあ父ちゃんの骨はきれいなんだろうと感心する。親バカならぬ子バカなのか骨まで良く見えてしまってうれし涙?が出てきた。父ちゃんよ、アナタは骨までカッコイイ。

斎場スタッフのひとはていねいに一礼して、「それではお骨上げをいたします。なにも申し上げずにお骨をお納めなさいますか? それともおからだの部分などをご説明しながらお納めいたしましょうか?」と尋ねてくれる。「あ、説明をよろしくお願いします」と即答する私。

スタッフさんは長い箸でお骨をゆっくり指し示しながら、「お足もしっかり残っておられますね。こちらからお納めください」と言う。確かに、大腿骨も骨盤もがっしりとしていて形がよくわかる。寝たきりの85才だったから骨ももろくなっていると思っていたが、お骨を見る限りではそんなように見えない。

大きめの骨から骨壺に入れていったが、はじめてのことゆえ落とさないか緊張する。それに次にどれを取ったらいいか迷い箸になったりとか。するとスタッフさんが「どうぞこちらを」と助けてくれる。

いくつか私が拾ったあとは、スタッフさんが説明しながら手ぎわよく納めていった。けれどもこちらの気もちに寄り添うような言葉を低い声でかけてくれる。「ずいぶんとしっかり残っていらっしゃいますね。ああ、こちらはお顔ですが、こんなにはっきり目元がわかるのはあまりございませんよ」

見ると、顔面左の上部分がそっくり残っていて、とくに眼窩のまわりが本当にきれいなかたちだ。まるで父にじっと見つめられているような気がして、思わず手を伸ばして目のふちをゆっくりと触わった。骨はほのかに温かく少しざらざらした感触だった。

「父の献体後火葬 その3」はこちらです。

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