それぞれに悩みを抱えながらも|遠方の心理学セミナー その18(最終回)

やがて懇親会もお開きとなって、たまたま帰る方向が同じ女性といっしょに外に出た。帰るといっても、私は翌日の早朝便の飛行機で帰るので、今夜は空港に近いビジネスホテル泊まりだ。彼女は隣の県まで帰るのでけっこう遠い。

セミナー会場の周辺は、なだらかな坂があって、その坂に沿って洒落たお店が並んでおり、こんな街並みははじめてだった。夜になっていっそう趣が増して、蒸し暑さまで妙に心地よく感じられる。はじめて歩く道をはじめて会った女性とぽてぽて歩く。イメージワークの後遺症?もあってアタマはふわふわ。

ぼーっと歩きながらときおり話をしていたら、その女性もやっぱり「サレ妻さん」だった。ああ、先生の専門はそっちだもんね。でも、わびしいなあ、そんなひとばっかりで。聞くともなしに聞いていると、旦那さんの浮気ははじめてではないそうだ。

「でも、いまダンナ、私にすごく気を使っていてね。バレた直後だからね」そう言って、彼女はクスクス笑う。しばらくして、彼女は「仕事できるしね。しょうがないかな」とポツリと言った。そして「芸能人とか歌舞伎役者とか、そんなひとのことを考えたら、まあ、しょうがないかな」とつぶやく。

私は思わず、「え? それは……ご自分のことを低く見過ぎているんじゃないですか?」とエラそうに言ってしまった。結婚もしていない私は本来なにかを言える立場ではないけれど、でも「仕事ができるから浮気されてもしょうがない」というのには、ひどく違和感を覚えた。

彼女のやるせない疲れたような表情を見ていると、う~ん、ホントウにそれでいいの?と言いたくなってしまったが、それ以上なにも言わなかった。ふたりでぼんやり電車に乗り、私が先に降りた。きっともう二度と会うことはないなあと思いながら、笑顔で見送ってくれた彼女に手を振った。

懇親会のときにもだれかが言っていたけれど、「ココに来ているヒトはみんなワケありだからねえ」。あ、そのセリフはずっと前にも聞いたよなあ。そうそう、昔々教会で聞いた。カウンセリングや教会の戸を叩くひとは、みんなワケあり。

でも、私の「ワケ」は大したことないかもしれない。今日、母の愛情に一瞬つながって、ああ、私は母にもちゃんと愛されていたんだなあと実感した。母ちゃんにも父ちゃんにも愛されていたとわかったら、なんかもうすべてが解決してしまった。

セミナーツアーの最後のホテルは、安いのになかなかクールで照明が洗練されていて、廊下の雰囲気がとてもいい。訊けば6年前のオープンらしいが、部屋のインテリアも私好みだし、ユニットバスも広々、床は鏡面仕上げ。部屋ごとに電子レンジとドラム式洗濯乾燥機まで付いている。

せっかく最後のホテルをゆっくり楽しみたかったのに、アマタが沸騰状態でポコポコして落ち着かない。なかなか寝付けなかったが、深夜1時前には眠れたみたいだ。

翌朝は4時45分にがんばって起きたので、7時15分の飛行機には余裕で間に合った。飛行機のなかでは目が冴えていたのに、到着してから帰りのバスでは爆睡だった。数人しか乗っていない田舎行きのバスなので、背もたれを思い切り後ろに倒して寝る体制を整えたとたん、熟睡してしまった。気を失ったかのように眠れたのは久しぶりで、寝覚めはすこぶる快適。

三日ぶりにウチに戻ったら、あれ? このウチも悪くないなあとなぜか思った。5畳一間のワンルームだが、まあ自分が好きなものでだいたいは埋まっている。あとは、マトモに片付けさえしたらいい部屋になるはずだ。旅先のホテルもいいけれど、クソ狭い我が家も落ち着くものだ。玄関に置きっぱなしにしている父ちゃんの骨壺に挨拶してから、二泊三日の心の旅に満足して、私は自宅のベッドでまた眠りに落ちた。

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