辞めた会社へ最後の用事

なんじゃかんじゃで後回しになっていたけど、クリーニングが出来たので、会社の制服を返しに行った。辞めた会社へ行くのってすっごくイヤなもんだね。でも、昨日会ったひとからいろいろパワーをもらっていたので、自分のイヤな気もちをきちんと認めつつ、そのうえで粛々と会社へ向かった。

建物のなかに入ると、ついついどうか知っているヒトに会いませんようにと祈ってしまう。なるべくヒトに会わなさそうなルートを選んで人事の部屋へ行った。そこで担当のひとを呼び出す。丁重にあいさつをして制服を返す。担当のひとは「わざわざありがとうございました。これでけっこうです」

ああ、このひとが、最初の面接のときにも案内してくれたんだよね。採用が決まったときも電話をくれたんだよね。辞めることを相談したのもこのひとだったんだよね。まだ三十なかばの女性だけど、その役割にふさわしく慎重にコトバを選んで話すひとだった。

これで本当におしまいだ。もう一度ていねいにアタマを下げてから退出した。帰りもドキドキする。どうかだれにも会わへんように!

すると、向こうから来る背の高い男性がにこやかに「こんにちは!」と言う。うげっ! 見ると、取引先の業者のひとだった。うわうわ!「あ、こ、こんにちは……」とどぎまぎしながら会釈した。私の上司のところにしばしば来ていたひとだった。上司とのシビアなやりとりでも、なかなかウマくソツなく交わせる腰の据わった男性だった。

すれちがったとき、少し振り返ると、そのひとも私に視線を送ってくれていた。私は、会社を辞めたことを言えなかったけれど、そのひとはすでに知っているはずだ。きまり悪く思っている私のことを気づかって明るくあいさつをしてくれたのだろうか。しかし、最後に会ったのがそのひとでほっとした。笑顔に救われた。

そそくさと会社を出て、帰り道にあるコンビニで飲み物を買ってひと息入れる。そういえば、会社のなかでは上司のことも後任のひとのことも同僚のことも思い出さなかった。ぜんぜん余裕がなかったんだね。ちょっとモヤモヤしたけど、いや、これでひと区切りついたんだ。これからまた新しい生活を築こう。

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