喜んでもらえる仕事

好きなピアニストがひとりだけいる。でもまあ、私なんかが本名を書くのもおこがましいので「B氏」と言っている。B氏はすでに引退しているが、現役のころは二十世紀の巨匠と呼ばれていた。日本よりもヨーロッパでの評価のほうが高いと言われていた。とくに、ドイツ、オーストリア、イギリスでは別格扱いされていた。

それほどに高名な大家なのに、あるインタビューで「ピアニストという職業をどう思いますか?」と尋ねられたとき、「お客さんに喜んでもらえる仕事だからいいですよ」とあっさり答えたことがあった。私はそれを読んでいささか拍子抜けした。

芸術がどうのとか作曲家がどうのとか、ムンムンした答えじゃないんだなあ。ヒトに喜んでもらえる職業だからよかったなんて、でも、それはそれで真実だよな。私もそのひとのCDを聴いてしあわせになれるもん。

ここ数日、私のアタマを占めているのは萩尾望都の新連載である。あの名作「ポーの一族」の連載がまた再開された。しかも今回は2016年の設定で、つまりこれは、40年まえに連載が終結した1976年の続きとしての物語であり、たぶん私と同じ年ごろのおばちゃんはみんなわーわー言っているはず。

私も月刊フラワーズの発売と同時にキンドルにダウンロードして、各コマを舐めまわすように執拗に眺めており、寝ても覚めてもエドガーの面影がチラチラするお祭り状態が続いている。いやべつにマンガの話にすぎないのだけど、物語の力ってすごいんだよねえ。

今日はたまたま、ある作品を読む機会があった。読みはじめたら、あっという間に惹きこまれてしまった。私は小説が苦手であまり読まないんだけど、マンガが好きなので、セリフや場面設定で映像が思い浮かぶことがあり、その作品は非常に生き生きと登場人物が見えてきた。

うわ、すごい……見えるし、音も聞こえそう。ディテールの描写が私の好みにハマっていて、はあ、これはいいわ。セルフも話の展開もテンポがあって小気味いい。気が付いたら、ぐーっとその物語に没頭してしまった。読み終わると、ふっと現実に戻る感じ。

ああ、いいなあ、やっぱり物語って! まるでそのキャラクターが現実に存在するかのようにハラハラするのは楽しいな!

そうなんだよね、ピアニストでも作家でも漫画家でも、別世界に連れて行って楽しませてくれるんだよね。だからピアニストB氏が言っていたことは正しい。才あるひとが提供してくれる演奏や作品のおかげで私たちは豊かになれる。

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