そんなつもりはサラサラないのに、ちょっとずつ出勤する時刻が早くなっている。
理由は、休憩室のそうじがおもしろくなってきたからだ。
もともと「仕事として」のそうじは好きなんよ。自分の部屋のそうじは2年ほどやっとらんけどね。
でも、店のそうじとかは好きで、とくにおもくそキタネエところのそうじはヨダレが出るほど好き。
ドロドロのグチャグチャ→ウソのようにピカピカ、舐めてもいいほどツルツル、という「変化」が好きなのだ。
だから、コンビニの棚そうじとかむっちゃ好きで、店長に頼まれて、ホコリだらけの棚を大々的にそうじしたときなんか、あまりに楽しくて、ヘラヘラひとりでニヤけながらバックヤードに入っていったら、バイトの若い男のコに目撃されて「春子さん、そんなにそうじ好きなんスか?」と笑われてしまった。
あ、でも店長はすっごくよろこんでくれて、本部のヒトがその店に来たときにも「見てください、こんなにキレイにしてるんですよ」とアピールしてすごくうれしそうだった。
やっぱりキタナイのがキレイになるのは楽しいよね。
だから、いま出勤のたびに休憩室をそうじしていたら、なんかまた血が騒ぐんだよ。
床がきたねえんだよな。コレ、ちょっとずつ磨いていきてーな。
しかし、ココの会社はサービス労働厳禁なので、あまり早く来すぎてはいけない。
あくまでも趣味でやるんだから、バレないように、こっそりとちょびっとずつ磨いていったろ。
とまあ、本業にぜんぜん関係ないことはミョーにやる気が出るというのに、仕事はあいかわらずダメダメで、今日もみんなに訊きまくって盛大に迷惑をかけどおしだった。
なんかねえ、私がオタオタしてると、みんなが群がってくるんだわさ。
あまりにもすぐに手厚いフォローが入るので、あれ? やっぱり私に原因があるのかな?と考え込んでしまった。
まあ、私がちっとも仕事ができるようにならないからだけど、それにしてもこんなにおおぜいのヒトがワーッと教えに来てくれるのはどうなんだろう?
ええと、そんなふうにたくさんのヒトが私に注目してくれて、しかも親切にていねいに教えてもらえるのはとてもうれしい。
それで……、エッ? もしかして私は、みんなに注目してもらいたいからヘタレぶりを撒き散らしているんじゃないか?!
いやあ、たぶん心理学的には、それが正解のような気がするね。
つまりみんなにチヤホヤしてもらいたくて、「あたい、こんなにバカなんよ」とマヌケヅラをさらしているわけだ。
まあ、いまのところ教えてくれるヒトたちも、べつにメンドウがってもいないし、みんなやさしく指導してくれるけど、いや、そろそろ自立も考えないといけない。
そんなことを休憩時間につらつら思いめぐらしていたら、ひとりのパートさんが部屋に入ってきた。
この女性は、私のすぐ上の先輩にあたるヒトだ。ココの会社では10年以上働いているパートさんがゾロゾロいるけど、このヒトは入社してからまだそんなに経っていない。
私より数ヵ月ほど先輩のようだが、それなのにもうぶ厚い備忘録を2冊もかかえていた。
「すごいですねえ」と私が感心すると、「仕事中にサッと書いたメモを、ウチで書き直して勉強してるんです」とのこと。
ひゃあ~、ウチでそんなに復習しているなんて!
そのヒトはやる気満々のオーラを放ちながら、キビキビとした足取りで仕事場に向かって行った。
す、すげえ……。ワシもいい加減に備忘録を作ろう。あ、昨日やりかけた資料も完成させよう。
それに、もっとオトナになることを意識して、みんなに依存しまくりをやめんかい!