とうとう持ちマンション売買契約完了|一瞬ご縁があったヒトの「物語」に想いを馳せる

パート退職勧告でわやくちゃになっとるんで、マンションの売買契約なんてほとんど思い出さなかった。
まあ、根が楽観的なんで、つまりヒジョーにユルユルなんで、どうせウマくいきよるわーとタカをくくっておったけど。

それでも、指定時刻より30分ぐらい早く到着するようにクルマを出した。しかし、ちょいとでも都会に近づくと渋滞するのう。結局、定刻の25分まえに不動産屋さんに着いて、取引用の別室に通されたが、すでにもうふたりのヒトが席に付いていた。

そのうちひとりのヒトが名刺を出されてあいさつされたので、ああそうか、このヒトが地元の不動産屋さんなんだとわかった。とすると、もうひとりのかたが買主なのだ。

買主のヒトは、ワシの予想とはまったくちがうかただった。それまで、購入を決めたのはどんなヒトだろう?とちょっとは考えておったけど、まるっきり想像もしていなかった人物像だった。

虚を突かれてドギマギしたが、すぐに担当のスタッフTさんがあらわれて、即座に手続きがはじまった。まずは、賃貸でもおなじみの重要事項説明が長々と開始される。しかし、敏腕Tさんの手にかかるとありきたりの説明ではなくて、けっこうおもしろく興味深く聞ける。

なんかさ、名ピアニストだったらハノンでも色彩あざやかに弾けるよなあとか想像しちまうほどで、要するにスゴいヒトはなにをやってもスゴくて、周囲を巻き込んで楽しくしてくれるんだよね。

終始よどみなく快適に説明がなされて、そのあとは大量の書類にめいめい住所氏名を記入していく。ワシ、いまの新住所をソラで書ける自信なくて、印鑑証明書見ながら書く。

あらかた書類記入が終わったあと、少しのあいだ、スタッフTさんが部屋を出ていった。
その場にいるのは、買主さん、地元不動産屋さん、ワシの3人。

すると地元不動産屋さんが「アレはきれいな部屋ですねえ。ウチもあそこを1軒所有してますし、賃貸でもたくさん手掛けましたが、あんな部屋は見たことないです」という。

はあ、そうですかいのう。ついこないだまで汚部屋やったんを必死こいてソウジしただけのハナシやねんけど。

ま、6年まえフルリフォームはしたよ。元からあった鉄製のダサい折れ戸が大キラいだったし、ミニキッチンが幅90cmしかなかったから、全面ぶっ壊すことにした。自分で寸法出して、キッチンもショールーム巡りで選び、下がり天井の部分に収納を造作してもらうことにした。

電気配線も大幅に変更した。配線は見えないようにカバーを付けたし、ネット関連のごちゃごちゃが見えないように工夫もした。

インテリア材では、まずいっちゃんはじめにカーテンを決めた。約3,000枚のカーテンをショールームで見て、ウィリアム・モリスのデザインにした。そのカーテンに合う壁紙を、こんどは約7,000枚のなかから選んだ。ついで、カーテン・壁紙に合うカーペットを約2,000枚からチョイス。巾木も見まくったし、玄関の床材選びも楽しかった。

まあ、つまり「インテリア祭り」を何ヵ月も開催して、ショールーム通いがおもしろうてしょーがなかったわけね。

で、工務店の工事は3ヵ月ぐらいやったかな? すべて完成してから、その部屋にひとりで入ってみたら、部屋全体がワシの「作品」みたいに思えた。
リフォームなんてはじめてやったけど、そないなしろうとがぜんぶ考えても、なんとかなるんやなあって感慨深かった。

さて、蜜月はあっというまに過ぎてもうた。そこまで思い入れしてこしらえた部屋やったのに、またもや「汚部屋化」してしまった。そして、もはやリフォーム当時の情熱を思い出すこともなかった。

ところが、その「元汚部屋」を、不動産屋Tさんは一見するなり「きれいですねえ、見たことないです」と言ったし、今日もまたべつの不動産屋さんが「いっちゃんきれい」だと言う。なによりも、目の前におられる買主さんがたいそううれしそうな表情を見せてくれている。

そうか。そうなんか。みんな、ワシの作品をそないに気に入ってくれたんかのう。
そのとき思ったのは「ああ、熱意って伝わるんやなあ」ってことだ。

当時それほどまで夢中になってコーディネートした部屋を、いろんなヒトが肯定してくれる。何千枚ものなかから選んだ1枚だということがちゃんと伝わっている。

その「伝わった」ということが無性にうれしかった。

そして、買主さんが満足そうな様子なのでホントに安心した。じつのところ、汚部屋にしてもうたことがすっごくうしろめたかったのだが、もうええか、「いま」を気に入ってくれてるんやから、なにも言わんとこ。

買主さんは、なぜ遠方からココへ引っ越しすることになったか、少し説明してくれた。それは、なかなかツラい事情もあるとわかった。「いろいろありましたしね」とも言われた。そうであるにもかかわらず、笑顔で楽しそうだった。

ワシも、どうしてココを売ることにしたかちょっと話した。「ピアノをどうしても弾きたかったから、音出し可のマンションに引っ越したんです」

買主さんはほほえみながらこう言われた。「それは、いいところが見つかってよかったですねえ」
そのとき、とっさにこう思った。

え? 買主さん、アナタはこれからそんなにタイヘンな状況になるというのに、それでもワシにそんなコトバをかけられるの?

売買契約は滞りなく無事に終わった。

でも、帰りのクルマのなかで、買主さんの「いいところが見つかってよかったですねえ」というコトバを思い出して、涙が止まらなくなった。
やさしいヒトなんだ。ご自分がタイヘンであっても、他人のしあわせを祝福してあげられるヒトなんだ。

あのヒトが、これからあのマンションで、あの壁紙を見てくれるんだなあ。あのキッチンを使ってくれるんだなあ。駅に近いとこにあるから、夜眠れないときは電車の音がよく聞こえるよ。明け方目が覚めたとき電車が聞こえたら、ああ、始発の時刻は過ぎてるなってわかるよ。

夏のはじめは、ホトトギスの鳴き声でわかるよ。窓から見えるあの山のてっぺんが青々してきたら春だし、茶色になったら秋だよ。

アナタの「物語」を、あのマンションでどうか良きものに書き換えていってね。

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