「女帝」であるお母さまのお引っ越し先

うれしい知らせとして、妹の就職先が決まりそうな気配である。妹は持病の悪化のため、いまの職場を9月末には退職しないといけない。しかも社宅のような住まいなので、同時に住むところも失う。

たいへんな危機なのだが、粘り強く職を探しており、その甲斐あってようやくひとつ見つかった。病気で仕事がとても制限されるというのに、たまたまやりたかった職種で求人があったらしい。

採用面接は後日ズームでやるそうで、その予行演習として私とズームをやることになった。私は、カウンセリングの自主トレをズームでやっていたのでまあまあ慣れていて、でもえっちらおっちら妹をズームに招待する。

妹と話せるのは楽しいなあ。それに、妹は遠慮がちなので自分の好みとかめったに言わないのだが、このごろラインではお気に入りのサイトとか教えてくれる。「おねえは興味ないでしょ?」と気をつかってくれるが、うん、たしかにそのサイトを見ると、それはもう自分では絶対見ないサイトだなと感心する。


おもしろいのはおもしろいけど、自分でたどりつくことはない。今日もズームでのっけから妹が「そういえば、ズームで困ったことがあったらしい」という。

そもそも私が「いやあ、パートでお客さんの顔、記憶術(『ストアカ/シンが教える記憶術』セミナー)使わないとまったく覚えられない。見分けがつかない」となげいたら、妹「あのさ、お坊さんが80人ズームで会議したら、ぜんぜん顔と名まえがわかんなかったんだって」

え?! 坊さん80人!パソコンの画面に並んでんのっ?! 妹「だから、識別に髪型というのは重要な要素なんだね」

いやまあ、ふたりでしばらく笑いころげていたけど、ふむ、その話と妹のお気に入りサイトとの共通点があるような気がした。笑いのツボが似てる。ネットでどんな情報を引き寄せるのか、やっぱり個性があらわれるね。私だったら、なにをどうやっても「坊さん80人ズーム会議」ってネタは拾えない。


昨夜私は、大正から昭和初期にかけて、日本で西洋音楽がどのように扱われていたかとか、当時のピアニストたちが戦争中にどれほど苦労したかなどをいろいろ読みあさっていた。どないがんばっても坊さん80人はひっかからへん。

妹も妹で、自分の身の上が恐ろしくたいへんなのに、お気に入りサイトには毎日投稿しているらしい。いや、気分転換できてよかったね。坊さんもふくめて、ちょっとでも楽しいことがあるのはいいよねえ。

そしたら、妹がやにわに「あのヒトは、来月引っ越すらしい」という。

え? あのヒトってだれ? どの男? ぎょーさんおるからどの男かわからんって思ったが、いやちがった。「あのヒト」とは我々のお母さまのことだった。


私「へええ、そおお、なんでわかった?」
妹「おじさんがラインで教えてくれたよ。おじさん、義理なのに月一は様子を見に行ってるみたい。あのヒトは、〇〇城の近くにあるサ高住に入るって」

「ほおお、カラダの調子はどうなん?」
「よくわからない。足腰弱ってるし、たぶん買い物とかもうムリなのかな」
「あのヒト、何才?」
「知らん、計算しないと」

めいめい計算する。私はといえば、昨日から昭和ヒトケタの話ばかりなじんでいたから、時代背景が即わかってしまって妙な気分だ。

ふたり「昭和8年生まれだから、いま87才やな」
妹「あとせいぜい1、2年やろ?」
私「いやっ! あれは絶対百才超えるっ!」と主張してゆずらない。


さらに私が「お金は? 年金で払えるん?」と尋ねると、
妹「うん、自分の年金でいけるらしい。それに貯金が400万あるって。私とおんなじ」
私「おまえら、金持ちやな。私借金しかないで。グランドピアノのローンが百何十万残ってる。あれもT子ちゃんが連帯保証人になってくれたから借りれた。ほんまおおきに」

妹「そう、だからそのサ高住の連帯保証人に私がなるから、ええと、印鑑証明書取らなきゃ」
私「えーっ?! T子ちゃんが保証人って、そんなのならなくていいよ」
妹「いや、そこまでおじさんに迷惑かけられないよ。それでなくても義理でうんと年下の弟なのに」

「おじさん」といっても、母の1番目の継母の次男なのだ。私はずっと以前2回ほど顔を見たていど。もう忘れた。ちなみにその継母の長男は自殺した。長男の奥さんも以前に自殺した。2番目の継母も自殺した。母方も父方も自殺したり殺人事件で亡くなったりというヒトがおおぜいいていろいろアレな家系なのだ。


かろうじて生き残っている年のはなれたその「おじさん」が母のところへ出入りしてくれているらしい。そもそも、私も妹も何年も母に会っていない。私が最後に会った、というか、母のところから脱獄したのは、デジタル日記をしらべてわかったが、2016年2月28日だった。なるほど、もう4年半になるのか。以来、母は一人暮らしだ。

私「荷物、どうすんの? あれさ、もとは段ボール100箱あったヤツを私が50箱まで減らしたけど、あれ以上絶対捨てへんで」
妹「だよね。おじさんもちらっと書いてた。整理するなら、私が手伝いに行ってもいいけど、彼女がいなければね。でもいるよね。彼女ヌキで整理できるはずないね」

私「T子ちゃん、会いたくないでしょ? 私もぜんぜん会いたくない」
妹「絶対いや。つぎは葬式でいい。葬式どうする?家族葬にする?」
私「いつも葬式の話に飛ぶな。葬式のまえに引っ越しや。でもさ、おじさんはあのヒトを助けたいんだからおまかせしたらいいよ」

妹は、私とちがってだれかの迷惑にならないかをすごく考えるので、かなりおじさんに気を使っていた。


私「いやほんと、おじさんはそうしたくてやってるんだから、べつに『ありがとう』でかまわないよ。そう信頼したらいいと思う。あのヒトも、そういうときはきっとお礼しているし」
妹「え?そうなの?」
私「うん、まえもそんなこと言ってたから、だいじょうぶだよ。それにしてもおじさんは、私たちふたりが母親に寄りつかない理由はわかってるの?」

妹「まあ、わかってるみたい。あの性格じゃだれもそばに寄らないって。おじさんはやさしいし、信仰心もあるから行ってるみたい。あ、でも、あのヒトがおじさんに『どうしてT子ちゃんが寄りつかないのだろう?』って質問してたって」
私「わかっとらんだろーがっ! あの女だけがーっ! どんだけT子ちゃんを傷つけてきたか、てめーだけがわかっとらんだろーがっ?!」

ほんと、母ちゃんのせいで、妹はむかし非常にきわどい自殺未遂をやったんだ。でも、母ちゃんはわかっていない。

まあ、母ちゃんは生い立ちが不幸だったから、結局子どもの気もちなんかわからずじまいだ。周りのヒトたちが「どれほど自分の役に立つか?」ということにしか関心がない。それで、いまはもう亡くなったけど、むかしはずっと父が母のことを世話焼いてきた。母の言うなりになってせっせと動く人生だった。


で、あれっ?!と気がついた。
いませっせと動いているのは、おじさんだよな? 父ちゃんもやさしいヒトだったが、おじさんもやさしい。

私「おい、T子ちゃん、あのヒト、またコキ使ってるよな? こんどはおじさんだな。また下男を見つけたんだな。ありゃ才能だな」
妹「そーだねーっ、ほんとお姫さまだよね」
私「姫どころじゃねーっ! 女帝だよ、女帝! てか、なんでおじさんのウチからすっごく遠い〇〇城のそばのサ高住にしたのっ?!」
妹「そーそー、おじさんがちょっと困ってた」
私「でも、自分が行きたいから行くんだっ! なんちゅーわがままっ! しかもよりによってこんどは城じゃん?! ベルサイユ宮殿かよっ?! 召使い付きでさーっ!」
妹「う~ん、うらやましい一生だ」
私「だから才能だよっ! T子ちゃんがダメンズ集める才能あるのといっしょ!」
妹「いや、これからはもっと慎重に選ぶつもり」

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