めまいは少し収まってきた。いっちゃんヒドかったときの3割減ぐらいか。引きつづきゴロゴロしていたらそのうち治りそうだ。
パートを辞めたらあっという間に昼夜逆転、このところ早朝5時に寝て、午後1時に目が覚める。いったん目が開いてもじきに寝てしまうので、起き出すのは午後3時ぐらい。
砂糖大さじ4杯入れたコーヒーを飲むと、とくだん空腹を感じなくなるので、ピアノを弾いたりYouTube見たり、ああでも早く食べなきゃ、でもめんどくさい。がんばって食パンを用意できるのがかろうじて午後5時。なんだ、もう夕方じゃん。
ごろごろうだうだするのに、ちょうどいい口実がめまいなので、あたしゃ病人だからなるべくふとんから出ないほうがいい、やることはピアノだけにしようと決めこんで、ほんまになにもしてない。洗濯ヤバいんだけどね、たぶん3週間してないよ。パンツも靴下もウラオモテ両面使ってもとっくに切れている。
以前引きこもりだったときも、ずっとこんな感じだったから、まあ期待を裏切らない結果だね。
ただ、引きこもりのときと大きくちがうのは、ピアノをやっていることだ。レッスンは変わらず週に一度あるので、自動的に練習することになる。
ピアノに関しては、将来バッハだけを課題にして欲しいというひそかな願いがあり、ということは、いまとくにバッハをきっちり仕上げておかないといけない。でないと、ぐだぐだのバッハを持っていきつづけて、その果てにぬけぬけと「バッハだけにしてください」とは言いづらい。
いま現在、ある程度ぱりっとしたヤツを弾けていたら、ああそうか、そんなにバッハだけ修行したいんだなとわかってもらえそうじゃないか。
でも、そのぱりっというのがなかなかで。
▼バッハ:フランス組曲第6番ブーレ。大好物。
しかし、好きなだけではうまくならない。この曲はかなりテンポが早い軽快な曲。私好みのタカタカ系だから、練習していても楽しくてたまらないが、早く正確に弾くのはひじょうにむずかしい。
もうね、メトロノームを50からいっこずつ上げていって80までとか、そういうのをねちねちやっとるんだが、安定しない。パチッとハマる感覚が得られない。
「早く弾くための弾きかた」もさんざん教わっているものの、そんなにぐいーっと一気にテンポは上がらない。一日あたり都合50回は弾いているが、まあね、それに見合う成果はあらわれない。一日で1センチぐらいしか進まない。さすがに後退はしないけど。
こんなにも上達しないのは、やっぱりババアだからだと思う。そりゃもう59才だし、そうバカバカうまくなるはずねーよな。
「身体を使うなにか」というのは、山登りで使い果たしてしまって、もうピアノには残っていない。
その山だって、標準コースタイムで歩けたためしがなかった。登りも下りも遅すぎて、ほかのひとたちにどんどん追い抜かれるのが当たり前だった。頂上にようやくたどり着くと、先に追い越していったひとに「あんたはここまで来られないと思った」とたびたび言われた。
そんなに遅いのはあかんのかよーっとムッとした。私は、このペースでずっと登ってきてるのに、おまいにそんなこたぁ言われたくねーよ。
まあ、でも、私は遅いのだ。なにをやってもすべてにおいて、遅い。
そういえば前回のレッスンで、ツェルニーをちんたらちんたら、まるで高速道路でママチャリこいでるかのごとく、ほんまにマイペースで弾き終わったら、先生が「×××××ですよね」と言うやいなや、ばびゅーんと超高速で弾きはじめた。
おううっ! まさかピアノで猛然と追い越しかけられるとは思ってなかったよ。いまなんか通りましたか?
むーんむーん、やっぱり遅すぎるのはいかんかね、そりゃまツェルニーは練習曲だし。練習しますよ、練習。せめて原チャリで走れるようにがんばるべ。
けれども、ツェルニーがぁ、ブーレがぁ、遅すぎてぇ、なーんて悩みはとても平和だ。安らかでさえある。
だって仕事じゃないもんね。やらされているわけじゃない。
自分が好きこのんでねちねち磨きたいと思ってなで回しているモンだから、「ココが磨き足りないでしょ?」と叱られても、なんかちょっとうれしくもある。
「そうかぁ、うへへ」と思って、じゃあもっとこう磨こうかああ磨こうかとどこか楽しみになる。
山もそうだった。
ひとから見たら、あんなに遅くて、体力もないのにテントなんかとひんしゅくかってたけど、べつに行程の大半はひとりでモソモソ歩いているだけだから、それで満足だった。
ピアノもおんなじ。
きっとたいしたことないけど、弾きたいから弾くだけ。