先日、妹とズームで、長々と話をした。
メインテーマは、妹が職場で「いろいろ困っている」ってことだったが、すいません、その後、だいじょうぶかねえ?
で、ズームのとちゅうで、ときおり「ピー、ピー」という声が入る。

妹が飼っているオカメインコ|ぽち
妹が飼っているオカメインコ。名まえは「ぽち」。女の子。
たぶん2015年12月ごろの生まれだ。
上の写真は、2016年7月に、妹からもらったヤツ。

ぽち、ごはん欲しいみたい。
そして、ズームで、ぽちがエサを食べているところを見せてくれた。

ひゃあ、よく食べるねえ。
と、ふたりで、ぽちの食べっぷりをしばらく見守る。
5分ぐらいは、おいしそうに食ってたかのう。
食べ終わったら、ぽちは、自分のアタマを妹のほうに近づける。

よしよし、ナデナデ。
ここがカユい?
ひたすら、オカメインコをモフモフしつづける妹。
私は、あっけに取られてしまった。
どうして私は、パソコンの画面で、ニンゲンが動物をなでているモンばかり、見せつけられるのだろう?
私は、猫動画が大好きで、ほぼ毎日見ているのだが、まあ、たいてい「猫をなでているシーン」があらかたで、それがどうしておもしろいのだか。
さて、オカメインコも、猫とおんなじで驚いた。
長いあいだ、ずーっとモフられるのが好きなんだねえ。
なでて欲しいところを、自分で向きを変えて差し出すとか、満足そうに目を細めているとか。
でも、オカメインコのほうが、猫よりスゴいのよ。
ひと通りなでてもらったあと、こんどは、ぽちが、妹に「羽づくろい」しようとする!
まあ、妹は、羽根生えてないんで、首のヒフをついばまれておるのだが。

あたたっ。
これ、痛いのよ。
ほんとに、首の皮、ちょっと噛むから痛い。

へええ!
スゴいね。
ちゃんとお返ししてくれるんだね。

そう、かわいいよ~
おねえも飼ったら?

いやあ、それはめんどくさすぎて。
自分にエサやるのも、タイヘンなのに。
妹は、ずっと前から小鳥を飼いつづけている。
先代は、コザクラインコだったかな?
私にも、たまに「鳥飼い」をすすめてくれるけど、いっこうにその気になれない。
ペットをかわいがれるひとって、やっぱり「愛を惜しまないひと」じゃない?
私は、「ちゃんとなつく動物」には自信がないよ。
鳥は、猫より世話がラクだけど、わあ、こんなに「なついてくるコ」を、その期待にこたえて、かわいがる自信ってないない。
それで、自分の人生を振りかえってみたら、おう、そういえば、「かわいがったコ」がおったなあ、と思い出した。
それは、動物じゃない。
「虫」ね。
「おカイコさん」だよ。

カイコ|高原社
出典 カイコ|高原社
小学3年生のとき、学校でもらって、おカイコさんを育てていたんだ。
クラス全員で、そういうことをしていた。
1センチぐらいの小さいおカイコを、2匹ずつもらう。
エサの桑の葉も、毎日学校でもらえる。
それをウチに持って帰って、プラスチックケースの中にいるおカイコにあげる。
で、シャクシャク食べている様子をじっと眺める。
元気に葉っぱを食べているおカイコは、とてもかわいかった。
でも、数日たつと、急に食べなくなる。
食べずに、アタマを持ち上げて、じーっとしている。

カイコの動きが止まる「眠」の見分け方|むしらぶろぐ
いま調べたら、その状態は「眠(みん)」と呼ばれるらしい。
眠に入ってから、一日ほどたつと、脱皮をする。
おカイコは、「1令~5令」と、合計4回脱皮しながら成長する。

カイコの育て方のながれ|高原社
学校で配られたときは、大きさから推測すると、どうやら「3令」のようだ。
しかし、脱皮する瞬間は、とうとう見られなかった。
気がついたときは、もう薄皮がクシャクシャにころがっている。
当のおカイコは、なにごともなかったかのように、もりもり葉っぱを食べていた。
最後の5令にもなると、はち切れそうなほど、丸々大きくなる。
体の長さもぐんぐん伸びて、8センチにも達する。

カイコ 家畜となった昆虫|いたこんニュース
おカイコは、そっとなでても、べつにイヤがらない。
スベスベのお肌は、ちょっとひんやりしている。
真っ白なので、その肌が透けて、体液が力強く、脈を打っているのがよく見える。
そんなにすこやかに育っていたおカイコなのに、やがて動きが鈍くなり、水っぽいフンを大量に出し、体が短くなる。
そして、プラスチックの片すみで、アタマをゆるゆる回して、糸を吐きはじめる。
楕円形の繭を通して、はじめはうっすらおカイコが見えていたのに、繭はぶあつくなり、なにも見えなくなってしまう。

カイコの動きが止まる「眠」の見分け方|繭|むしらぶろぐ
出典 カイコの動きが止まる「眠」の見分け方|繭|むしらぶろぐ
ずいぶん長いこと、繭のまんまだなあと、当時は待ちくたびれた。
繭から蛾が出てくるまで、約10日間らしい。
私はまだ、9才の子どもだったから、時間がたつのが遅い。
1回目に育てたおカイコは、2匹ともメスだった。

カイコの成虫|ウィキペディア
ふわふわで真っ白な蛾は、ぱたぱた羽を動かしながら、容器の底に、びっしり卵を産み付けた。
おカイコの成虫は、なにも食べない。
そして、一週間ほどで死んでしまう。
おカイコのお墓を作らなきゃ。
死んじゃったふたつの蛾を、小さい紙箱に入れて、ウチの庭の隅に埋めた。
とくに、悲しくもなんともなかった。
そういうもんだと思っていた。
「おカイコ飼育」は、どういうわけか、2回行なわれた。
私は、またあの「すべすべまるまる」のおカイコさんを、なでられると思って、とてもうれしかった。
2回目も、2匹もらって、大切に育てた。
おカイコさんは、順調に大きくなっていった。
ところが、とんでもないことが起こった。
それまで毎日、学校で、数枚の桑の葉っぱをもらえていた。余分にもらうこともできた。
それがいきなり、こう宣言されたのだ。

今日からは、ひとり『2枚』だけになります。
おカイコのことで、アタマがいっぱいの私は、大ショックだった。

どうしよう?!
たった2枚じゃ、ぜったい足りない!
案の定、2枚きりの葉っぱを持って帰っても、2匹は、あっという間に食べつくしてしまった。
もう芯だけ残して、2匹とも、物足りなさそうに、容器の中でうごめいている。

どうしよう?!
このままじゃ、きっと死んでしまう!
1日2枚は、ほんとに少なすぎた。
ちょっとでも持ちがよくなるように、何回かに分けて、食べさせる工夫をしてみたが、絶対量は足りない。
じつのところ、おカイコは、エサが少ないなら少ないなりに、ちっちゃく成長するだけらしい。
べつに死なない。
だが、前回は、平気でたくさん桑を与えて、丸々と育てたので、「もうすぐ飢え死にするんじゃないか?」という恐怖におののいていた。

どうしよう?!
このままでは、おカイコが死んでしまう……
そのころ私は、週に一度、ピアノを習いに行っていた。
レッスンの日は、学校の帰りに、先生のお宅へうかがう。
で、おカイコは、もうすでに5令に入っていた。
食べざかりのおカイコが2匹もいるのに、相変わらず、桑の葉っぱは、1日2枚しか配給されない。
その日も、たった2枚の葉っぱしかもらえず、暗澹たる気もちのまま、レッスンへ向かった。
ピアノの先生は、「ちょっと恐め」の先生だった。
小学3年生になったとき、先生が変わった。
新しい先生は、背が高く、がっしりした体格で、大きな声ではっきりしゃべるかただった。
その「ちょい恐」の先生が、私を見てこう言われた。

あら、春子ちゃん、どうしたの?

先生……
葉っぱを2枚しかもらえなくて。
おカイコさんが、死んじゃう。
すると、ピアノの先生から、ありえないようなことばが、返ってきたのだった!
