そびえ立つような急坂を目の前にして、私はなかばヤケクソ気味だった。
いや、おまいが物件探しとるんだろっ?!
そのために不動産屋さんも楽器店スタッフさんも来てるんだから、はよ登らんかいっ!
過去に照らすと、こんだけの激坂は、助走をつけて一気に登らんとあかん。
私は覚悟を決めて、ギアを1速に入れ、めり込むほどアクセルを踏んづけた。
哀れな軽トラは、激坂をノロノロとにじり上がる。
運転席さあ、おおかたの体重が背もたれにズッシリのしかかって、もうロケットの発射かよっ?!みたいな体勢。
しかし、かろうじてズリ落ちることなく、目的の物件前まで、ようやっと到達した。
が、駐車場は、物件より一段下の細い通路の奥。
なので、こ、こげな急坂をバックでやや下り、そのまま左奥へ入れることになる。
もうさ、助手席にいてくれた楽器店スタッフさんに大感謝だよ。
スタッフさんが左見てくれなかったら、またまたドコカぶつける寸前だった。
ふぅぅぅぅぅ……
こりゃムリだっぺ。
こんなんとてもじゃないけど、毎日でけへんわ。
クルマ停めるだけで疲れ果てて、ふらふらになって物件にたどり着く。
しかし、中に入って仰天! う……キレイすぎるっ!
肝心の画像がなくてすいません。
井戸だのボットンだの、まったく無縁かのように、建物の中はとてもきれいだった。
これはステキと浮かれそうになった私に、楽器店スタッフさんがこう言った。
「ここは、静かすぎますね。
防音室はやっぱり必要です」
え? 隣と数十mほど離れてるのに?
スタッフさん「ここまで静寂だと、ものすごく音が響くんです」
すると不動産屋さんまで、
「別荘に来るヒトたちは、静けさを求めて来るんですからね」と言う。
ちょうどそのとき、遠くから「電車の踏切」の音が明瞭に聞こえた。
うわっ、十数キロ離れているふもとの電車なのに、カンカンと丸聞こえっ!
ああ、参ったなあ、こんなに響きわたるなんて!
どこに住むにしても防音室は必要なんだ、ふう。
それに、この物件までの激坂山道をしょっちゅう走る自信も、まったくなかった。
「隣から離れていればOK」ってワケじゃないと、つくづくわかったよ。
結局、この別荘物件は見送った。
じゃ、次行こう!
その次に目をつけたのは、住宅地からちょっと離れたところにポツンとある物件。
ネットで見つけたそのページの「備考」欄には、こう記載されていた。
「心理的瑕疵あり」
そう、いわゆる「事故物件」だ。
いいっすよ、べつにピアノが弾けたら。