いまの新居に、私が引っ越して、ちょうど1ヵ月経った。
ずっとむかし、私が実家を離れたのは、阪神大震災がきっかけだった。
1995年だから、私が32歳のとき。
運よく地震のおかげで、実家を脱出できたのだ。
以来、61歳までほぼずーっとひとり暮らし。
あれれ、人生の半分は、勝手気ままなひとり暮らしを満喫してきたんだね。
ただし、私は超絶ナマケモノで、まともに働いてこなかったため、当然ビンボー。
ビンボーだから、クソ狭いワンルームマンションしか住んだことがなかった。
ま、そんなモンだと思っていたし、とくに不満を感じたこともなし。
けれども、母と同居するということで、こんどの新居はなんと「2LDKマンション」。
家賃は母と折半で、それなりに私の住居費は高くなったが、それなりに広くて、それなりに設備も整っている。
キッチンはファミリー用のシステムキッチン、風呂とトイレは別々だし、洗面所までちゃんとある。
築47年と古いので、あちこち梁が出っ張っているが、内装はぜんぶ新しくリフォームされていて、ほんとピカピカ。
広くてキレイなウチに住むと、ややっ! 気分が違うぞっ?!
そもそも、このマンションは、私がネットで見つけて、すぐに内見に行き、ひと目で気に入った。
「高齢の母を介護する」のがいちばんの目的だけど、「自分の心地よさ」も大切にしたい。
新居を探しているころは、母の介護がもっとタイヘンだと思っていて、「介護のしんどさが、帳消しになるようなところに住みたい」とたくらんでいた。
その結果、いま「私」はたいそう満足している。
小広い部屋で、エアコンをよく効かせて、電子書籍(キンドル)でマンガとか、のんびり読んでいると、ふうん、適度な広さって必要なもんだと気がついた。
でさあ、さっき「『私』はたいそう満足」と書いたけど、それはだね、「もうひとりのお方」はどないだ?ってことでもある。
母ちゃん、やっぱりいろいろと「ご不満」でいらっしゃる。
一般人には「ごくささいなこと」でも、姫君はお気に召さない。
さいしょ私は、「サ高住を退所して、子どもとふたり暮らしになるんだから、けっこうメリットあるじゃん?」と思っていた。
毎日、自分が好きなモノを好きなだけ食べられて、ヘルパーさんが来るのは、週3回の入浴だけだし、まあまあいい環境だよね?
あんたさあ、ソレでもまだ文句垂れんのっ?!
と、それこそ私は「母ちゃんに対して不満」だったのよ。
で、明日は、母がクリニックに行く日で、じゃあ、クルマが渋滞しない道を探そうか?
てな話を母にして、私は自分の部屋のパソコンで、グーグルマップを調べていた。
よさげな道が見つかったので、母の部屋へ向かいつつ、ええと、あたしゃスマホでマップ、すぐに出せないんだよね。
そしたら母ちゃんが、自分のスマホでグーグルマップを開いて、すでに眺めていた。
おい、あんた、3日前にスマホ渡したキリだろうが!
「5年ぶりだから、もう、ぜんぶ忘れた、デキない」ってホザいてたクセに、なんで、私より先にグーグルマップなんか出せるんだよっ?!
それで、つくづく思ったんだよねえ。
90歳になっても「なんでもサッサとできちゃうヒト」だから、ああ、自分の周囲に対しても、要求が高くなっちゃうんだろうなって。
母は、好奇心旺盛で記憶力もいい。
だから、私も話していて楽しいし、おもしろい。
そういう長所は、裏返すと「周囲のアラがいちいち気になる」という短所に見えてしまう。
でもほんとはね、「長所、短所」なんてラベルは「私の都合で貼り付けている」だけ。
そう気がついた。