私が母の部屋をのぞくと、母は窓際のイスの前で、ぺったり尻もちをついた状態で座り込んでいた。
ありゃ、またコケちまったか!
いっちゃん心配なのは骨折。
私「どう? すんごく痛い? ホネ折れた感じする?」
母「ううん、だいじょうぶ。
お尻は痛いけど、ホネまで折れてないみたい」
私「じゃあ、ごめん、ちょっと待ってね。
そのままで、なるべく落ち着いて深呼吸しといてね。
あたし、ちょうどいま、う〇こしたいから」
そうなんよ、まさにいま、さあ、便所でキバろう!と出す気満々だった。
なので、まずはトイレでゆっくり用を足す。
で、これからのシミュレーション。
1.母が、座り込んだままでイザれるようなら、介護ベッドまでイザッて移動してもらう。
2.イザるのがムリなら、母のケツの下にバスタオルを押し敷いて、私がバスタオルを引っぱり、介護ベッド近くへ移動。
3.母に、すべり止め付き靴下を履かせて、少しは踏んばれるようにする。
4.介護ベッドの高さを最低まで下げる。
5.介護ベッドの長辺側に、母にもたれてもらう。
6.母の左手で、介護ベッドの補助バーを持ってもらう。
7.母の右には、小さめのイスを置き、そのイスの上に右手を置いてもらう。
8.母の両肩に「キャリーバッグ背負いベルト」を装着。
9.私が介護ベッドの上に上がり、「背負いベルト」の一番長いベルトを、自分の首にかける。
10.「せーのっ!」で、私は腰を落とした状態から、自分の体重を後方へ倒すようにして、母をベッドの上へ持ち上げる。
母には、自分の両手で、身体を少しでも上に上げて、ベッドに座れることをめざしてもらう。
コレでイケるんちゃう?
さいわい今回の転倒も、低い位置からグズグズッと尻もちをついたらしい。
たとえば、完全に直立している状態から、ツルッとすべって転倒したら、マジヤバいと思うけど、今日もまだそこまでヒドくない。
で、母ちゃんに、私がまず見本として、
「ほら、こんなふうにね、ゆっくりでいいから、お尻を床につけたまま、ちょっとずつベッドに近づけるかな?」と実演して見せた。
「うん、できそう。痛いけど、がんばる」
母も、一度目の転倒のときよりは、やや落ち着いていて、パニックにもならず、懸命にベッドまでイザッてくれた。
その後は、さっき考えたシミュレーションどおりにやってみる。
すると、ほほう! なんとすんなり母の身体が持ち上がり、あっという間にベッドに座れてしまったのだ!
私自身は、まったく両手を使わず、首にかけたベルトだけで、ベッド上で足をふんばって後方に体重をかけたのみ。
はれれ、工夫しだいで意外とイケるじゃん?!
あと、母に、自分の両手で身体を持ち上げるのを、がんばってもらったことも大きい。
そうしてもらったことで、前回とはくらべものにならないほど、ほんの少しの力で、スッとベッド上に座れてしまった。
母ちゃんも、こんどは短い時間でベッドに座れたので、ずいぶんホッとしている。
それにしても、「キャリーバッグ背負いベルト」って優秀っすねえ。
べつに介護用品でもないけど、このベルトはしなやかで、母もちっとも痛くないと言う。
ほんまはね、耐荷重20kgだから、ばあちゃん持ち上げるのに使ったらヤバいんだけど。
でもさ、介護専用の腰ベルトを試したら、硬くてゴツくて、
母ちゃん「背骨が折れそう!」と叫んでた。
だから、いくら専用の耐荷重OKのベルトであっても、ウチの母には使えず。
もうしゃーないんで、この「背負いベルト」で当分間に合わせようじゃないか?