90歳だったら病院でこんなエゲつない扱いをされて当たり前かよっ?!

日々のあれこれ

入院している母の状態は、まったくわからない。

病院「家族は、電話をかけてこないでください」という。

てなことに、私はイラだっていた。

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だが、ネットを見ていると、

「危篤や容体悪化のときしか、面会できない」とか、

「とうとう最期のときも、病院のなかに入れなかった」という記事まであった。

とすると、こんどの病院は、

「なにかあったときは、病院から家族に連絡します」と言っているが、それはもしかすると、

「危篤になったら、電話しまっせ」ということかもしれん。

そんなアホな……と思ったが、はあ、そういうのが当たり前のご時世なんだ、といまごろ気がついた。

まあね、病院だってイケズでやってんじゃない。

感染を防ぐための苦渋の策だろう。

で、とりあえず洗濯物の受け渡しに、病院へ行った。

そしたら、母の階の師長さんが、1階に降りてこられた。

「せっかくだから、ちょっとだけ……」と、私にコソッとささやいてくれた。

ええっ?! 母に会わしてくれるんっ?

へええ、すごいと驚きながら、母のベッドのそばに行ったら、絶句した。

母はすでに、酸素吸入を受けていた。

どうして、ここまで悪化しているのに、なんの連絡もないのだっ?!




「……母ちゃん」と恐る恐る呼びかけると、

母は、ゆっくりとうっすら目を開けた。

少し口元がゆるんだが、声にならない。

懸命に聞き取ると、母は、かろうじて、

「ずっと……たべられない。

わたし……もうことしで……おしまいなの?」と、途切れ途切れに言っている。

「いや、そんなはずないよ。

先生は?

S山先生は、なんて言ってるの?」

「……せんせい……いちども……きてくれないの」

「えっ?! それはヒドすぎる。

平均寿命を超えているからって、点滴だけで済ますなんてっ!




「胃ろう……してほしい。

まだ……春ちゃんと……いっしょにいたい」

「わかった、すぐに文書出そう。

事前指示書、作ってくるから待ってて」

私は、猛ダッシュで自宅に戻り、事前指示書のフォームを印刷して、また病院に戻った。

ちなみに、内容は、延命治療について、ひとつひとつ「希望する・しない」のチェックがあるヤツ。

ハラ立つから、ぜんぶ「希望する」にチェックしてやった。

冒頭に「S山先生 御侍史」とデカい字で書いておく。

あとは、母のサインをもらうことになる。




受付で、憤然と、

「師長さんをお願いしますっ!」と呼ばわる。

おいっ、末梢点滴だけでいいとは、母も私も、ひとことも言ってないぞっ!

おまいら、母ちゃんを餓死させる気かよっ?!

師長さんは、

「そういうのは、うちの病院の書類があるので」と言って、しばらく待つと、その書類を持ってきた。

見ると、そいつは「不慮のなにかで、どうかなったとき、それを承諾します」みたいなヤツ。

ちゃうちゃう。

私「そうではなくて、延命治療を受けたいんです。

たとえば、可能ならば、胃ろうをしてもらいたいんです」

私は、事前指示書の項目のひとつにある「胃ろう」を、赤ボールペンで囲った。

「母の意思表示を、文書としてちゃんと提出したいんです」

師長さん「そんな……こんなのは、出してもらったことがありませんよ」

「前例のありなしは、関係ないと思います。

あくまでも、本人はこういう考えだと、現時点で示したいんです」




「いや、困ります。

まずS山先生に、娘さんが会ってから……」

「いいえ、私じゃありません。

患者本人の母が、病院側に、自分の意思を伝えたいんです。

あの状態では、本人はできないでしょう?

私は、その代弁者としての義務を果たしたいのです」

師長さんは、おだやかで、柔軟的なかただった。

「わかりました。

じゃあ、お母さんにサインしてもらいましょう」

面会禁止のはずなんだが、また私は、母の病室に入れてもらえた。

師長さんは、ベッドの上半分を上げてくれ、母が記入しやすいように、事前指示書をティッシュの箱で支えてくれた。

母は、非常に緩慢な動作で、それでもボールペンで、日付と署名をしてくれた。

私「ね? ここの文章に、胃ろう、入ってるからね。

もうちょっとがんばろうね」




師長さんに、事前指示書のコピーを2枚お願いして、1枚はクリアファイルに入れて、母の枕頭台に置き、1枚は私の控えとした。

そして原本は、師長さんからS山先生に渡してもらうよう依頼した。

師長さん「でも、S山先生は、毎日来られないし、私は明日あさって休みだし」

クソうるせー野郎だなっ!

てめえ、引き継ぎとかもできねーんかよっ?!

まあ、ここまでさせてもらったらヨシとするか。

あんまり噴火するのもアレなので、私は、

「はい、できるかぎりでけっこうです。

とにかく、なんらかの方法で、S山先生に、この事前指示書をお渡しください」と引き下がった。

ふう。

もしも一年後、この世にいないとしたら。
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