主治医先生「なかなか直接胃ろう希望となると、
ここではちょっと、もう太刀打ちできないかなと思うので」
私「はい」
「ご希望に沿えないようであれば、早めに撤退すべきかな、ということが言えると思います」
私「そうですね、はい。
で、そうであっても、まあ、あのう、これもシロウト考えなんですけどね、
あのう、経鼻胃管は明日にでも、まあ、やっていただけるんですか?」
先生「けど、鼻から管入れて退院って、現実的じゃないんで、いったん家へ帰るときに、
それの管理は、たぶんなかなかむずかしいと思うんですけど」
「はい」
「あのう……長女さんひとりで看はるわけですよね?」
「そうなんです、はい」
先生「なかなか知識とか、そういうものがないとね」
私「それはまあ、シロウトですからね」
「それはできないんじゃないか、と思うので。
それだったら、経鼻入れずに帰るほうがいいんじゃないかな、と」
「あ、そうなんですか?
でも、たとえば……、あー、これもすいません、あのう、失礼なんですけど、シロウト考えで。
まあ、そのあいだ、私もすぐには病院を探しきれないと思うので。
そのあいだにも、ある程度栄養を摂ることができるのではないか?とも思うんですが、それは、いかがでしょうか?」
「う~ん…………なんか、やっぱ、まちがっているような気がするな、う~ん……」
「あ、まあ、それは、たとえば明日すぐにでも、そういう病院があれば、
すぐに転院するのがベターかもしれませんけど。
やはり探すのには、何日か時間がかかると思いますのでね」
先生「う~ん……」
私「ま、その間、あのう、数日であっても、多少なりとも栄養が摂れる状態にする……」
「簡潔に言うと……」
「はい」
「……まあ、本人さんの、娘さんやなくて、本人さんの考えは、ええと、
『なんも食べたないけど、長生きはしたい。でも、鼻から管入れるような痛いのには、して欲しくない。で、胃ろうは造って欲しい。』
と、いうことですよね?」
「あ、そうですね。
ま、そのう、胃管が苦しい、胃ろうはどうかっていうのは、母はどっちも経験がないので、
単純に、ほんとにイメージだけで考えているんだと思いますけどね」
「……」
「医療的な知識が、あるわけではないですからね」
先生「……う~ん、ちょっと添えへんかなあ、むつかしいかなあ」
私「あー、そうすると、経鼻胃管をする、ってこともですか?」
「うん、うん」
「ふうん」
先生「なんか、やっぱ、ちがう気がするなあ」
「それは、すみません、しつこくて申し訳ないんですけど。
『ちがう』というのは……、
じゃあ、『ちがわない』っていうのは、どういうことなんでしょうか?
やっぱり『なにもしない』ということが、ベターだとお考えですか?」
「……いや、その『痛いのがイヤ』っていうのが、ずっと引っかかってて……、
いや、そのう、鼻から管入れるのは、ある程度長くなりますよ。
その、胃ろう入れる前に、いきなり、はい、今日胃ろうとはならない」
私「あ、そうでしょうね」
先生「……う~んと」
私「ま、そのう、痛みがね、申し訳ない、なんかしつこくてアレなんですけど。
痛みがイヤなんですけど、それを上回って『生きたい』わけなんですよ、本人は。
ま、文句は言うんですけど、『痛い』と。
でも、『生きたい』わけなんですよね。
だから、まあ、そのう、アレですよ、
『痛いのはガマンするから、なんでもします』っていう表現だったら、わかりやすいんですけど。
『アレもイヤ』とか『コレもイヤ』とか言うものだから、
ちょっとわがままに見えてしまうんだ、と思うんですよ」
「………………」
と、先生はしばらく黙ったあと、そばにいた看護師さんに、
「なんかある?」と尋ねた。
看護師さん「とりあえず……」
私「はい」
看護師さん「本人さんが、どう思ってはんのかを訊いて、もういっかい」
私「はい」
「ま、胃ろうしたいと言っても、やっぱり先生が、いまおっしゃられたように、段階があるんですよね」
「はいはい」
「いま、ぜんぜん食べられてへんなかに、おなかがびっくりするやろ、ていう話とかもあるから」
「はい」
「やっぱりいろいろ試すことは必要やと、思うんですけど」
「はい」
「もし『食べたいねん』と言いはったとしたら、もう食べてもらうことに集中するしかないと、思うんですよ」
「はい」
看護師さん「なので、もう一回、本人さんとこ行って、訊きましょか?」
私「あ、はい。
いまさっきも、おんなじ話はしました」
「あ、ほんとですか」
「で、私は『一回、鼻、試してみたらどう?』って言ったんですけど、『イヤなら抜けるし』」
「だから、それやったら、しっかりしてはるのに、管を入れたら、たぶんずっと抜きっぱなしです」
「はあ」
「ちょっと、本人さんも納得できる、歩み寄らないと」
「はい、すみません、申し訳ないです」
主治医先生は、ここで退席された。
あとは、この看護師さんといっしょに、母のベッドへ行く。
そして、看護師さんは「食べないかんよ」と、強い口調で延々繰り返しハッパをかけていた。
で、それに対して、母はただ「はい……はい……」と返答するだけだった。
とまあ、以上、12月14日の時点では、鼻チューブ(経鼻胃管)をするかどうか、結局あいまいなままだった。