子どもに会えない苦しみの末、そんな手段を考えていたとは!│7年ぶりに89歳の母に電話をかけたら│その3

日々のあれこれ

母は、ようやく子どもからの電話だとわかるやいなや、それこそ堰を切ったかのように、つぎつぎと話しはじめた。

さっき夕方もかけてくれたんでしょう?

ごめんね、ハミガキしてたから、出られなかったのよ。

携帯電話、やめたの。充電とかタイヘンで。

スマホも試してみたのよ。でもやめたの。高いし充電がしんどいし。

夕方の電話、ぜんぜん知らない番号で、だれだろう?ってすごくふしぎで。

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もう、私が口をはさむスキもなく、話しつづける母の声を聞いていると、ああ、これまでずーっと、どんなにか、子どもと話したかったのか、胸が締め付けられるような思いがした。

すると、母がこう続けた。

「毎日、何のために生きているんだろう?って……

子どもに会えないのが、いちばん辛くて……

だから、方法、考えてたの」

え……

「いろいろ、方法考えてたけど、ダメなの。

どんな方法でも、ひとに迷惑かけるなって、わかって。

だから、それが歯止めになったの」

…………




「それに、自分でもなんとなくわかるけど、まだあと1、2年寿命は尽きそうもないし。

しかたないな、生きるしかしょうがないな。

でもね、電話番号は控えてあるのよ、そういう相談できる番号、あるでしょ」

これには、さすがの私も参った。

うわ、これは「逃げる」しかできないな。

すみません、私はいったん「思考停止」です。

そして、とにかくまず、母が言いたいことを傾聴しようと努める。

母の話は、ややあちこちに脱線しつつも、とてもわかりやすく理路整然とつづいた。

その話しぶりは、7年前とほとんど変わらず、少なくとも認知の衰えはまったくうかがえなかった。




あまりに感心して、私が、

「母ちゃん、ものすごくアタマがしっかりしてるね。とても89歳とは思えない。頭脳明晰だね」と言うと、

「頭脳は書けるけど、明セキのセキが書けないわ。

あのね、デイサービスで『脳トレ』もやっていて、いつも漢字の書き取りや読みがなをがんばってるの。

だって、もしかして子どもに会えたとき、ボケてたらイヤでしょう?

いつか子どもに会ったときのためにって、脳トレしていたの」

ああ、そんなにも子どもに会いたい思いを募らせていたのか……!

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