新居には、すでにグランドピアノが運び込まれていた。
調律師さんからも「いつお伺いしましょうか?」とメールが来ていた。
しかし、まだ私は、いちどもピアノを弾いていなかった。
ご近所の面々が怖ろしくて、とても弾く気になれなかったのだ。
といっても、怒鳴り合っている方々というのは、「ゴミ屋敷の親子」と「謎男」の3人だけなのだが、う~ん、どないでっしゃろ?
たかだか3名ほどが、しょっちゅうケンカして罵声を上げて、モノを投げ合っているという状況は、「大したことない」か?
どうやら殴り合いのケンカとまではいかないようで、うん、ケガさせてるわけじゃない。
だったら、わりとフツーなのか?
とりあえず「ごく普通の家」は1軒のみ。
あとは「ゴミ屋敷」「謎の家」「崩壊寸前廃屋」「私(←こいつもヘン)」「空き家」という構成だ。
そうこうするうちに「ごく普通の家」の外壁工事がはじまった。
家の周りぐるっと足場を組んで、大々的に外壁を工事している。
はい、それで工事の騒音がそれなりに響きはじめた。
すると、くだんの「謎男」が「じゃかぁしぇっ!」と怒鳴った。
猛烈な勢いで、工事スタッフをののしっているが、まあ、工事は止めないよね。
だもんで、謎男はますます怒り狂って、雄叫びをあげるは、モノを投げつけるは、タイヘン張り切っていた。
けどねえ、まあ怒鳴る投げるは、連続10分間ほどかね。
いくらがんばっても、ぶっ通しで1時間怒鳴るとか、やっぱりデキないもんだ。
だから、謎男さんが毎日怒鳴るといっても、せいぜい1~2時間に1度、突発的に「怒鳴る投げる」をがんばっていた。
そこで、私はつくづく思った。
なるほど、こういう「怒鳴り声」というのも、たぶん騒音かもしれないが、それでも「ピアノ練習の音」よりはずっとマシだよねって。
だって、ピアノの練習って、一日合計3~4時間になっちまうから、それに比べたら謎男さんなんて、時間でみたらぜんぜん大したことない。
しかし、だ。
「工事の音」に対して、毎日怒鳴りつづけるというのは、ちょっとヘンかもしれない。
ふつう、工事の音をうるさいと思うものの、多くのひとは「まあ、工事だからしゃーないか」とガマンするんじゃないか?
けれども、謎男は根気よく?毎日工事スタッフを怒鳴りつけ、そこいらのガラクタを投げつけていた。
う~ん、もしかすると「変わったヒト」かもしれない。
あまり居心地のよくない新居でモンモンとしていたら、夜間とつぜん、私の家の玄関を激しく叩く音がした。
うわっ、ついに来たか?!
時計を見ると、夜11時すぎである。
あ、あたしゃ、まだなんにもしてないよと、うろたえる。
しかし、玄関扉をガンガン叩く音は、一向にやまない。
いったいダレが叩いているのだろう?!(泣)