まったく予想していなかったが、新居の周りは、どうも騒がしい。
謎男とゴミ屋敷息子さんは、しょっちゅう怒鳴り合いのケンカをしている。
この怒鳴り合いに、ゴミ屋敷お母さんが参戦することはない。
が、お母さんは、そのグチも含め、なにやかや私のウチにやってくる。
まあ、ケンカにしても話にしても「合計時間」で考えると、そう大したことない。
けれども、え?……ココにずっと住むとしたら、こういうのに慣れてかないといかんのかね?
そして、肝心のピアノはまったく弾けていない。
謎男さんは、隣の外壁工事ですらガマンならなくて、毎日工事スタッフにがなり立て、モノを投げつけていた。
そんだけ「音に敏感なヒト」がおるのに、さすがにグランドピアノなんて弾けないよ。
しかたがないので、電子ピアノを細々弾いていたものの、どうしたものかずっと悩んでいた。
あと、部屋のなかに虫が多いのにも困っていた。
ゴキブリ対策グッズをたくさん置いてはみたものの、一向に減らず、こやつらは毎日元気に駆けずり回っている。
バルサン焚きたいけど、そうすると、またおねえさんが飛んでくるだろうし。
ある日の夜、台所のイスに座ってボーッと、これからどうしようと考えていた。
で、ふと、台所の窓を見ると……
うわぁっ!!!
そ、そこには「人の影」が見えたのだ!
だれかいる!
その黒い人影は、ゆっくりと左に動き、そしてピタリと止まった。
すりガラスなので、ぼんやりとしか見えないが、明らかにだれかがこちらを覗いている。
ウチの家とゴミ屋敷の間に70cmほどのスキマがある。
そこにだれかが立っているのだ。
背筋が寒くなった。
私はそうっと立ち上がると、台所の灯りを消し、足音をしのばせて隣の部屋へ移り、台所との境の引き戸を閉めた。
真っ先に怖くなったのは、風呂場だ。
風呂場には換気扇がなく、すりガラスの窓がある。
ああ、この分じゃ風呂場もアブナイよなあ。
ま、ご期待に沿えるようなモノはなんも見せられんのだが。
そういえば、ウチの周りを歩く足音はたまに聞こえていた。
ここいらの住宅は、あの「ごく普通の家」以外、どのウチも塀がない。
ちゃんと区切っているモノがないから、まあ、通路代わりにヨソのウチの周りを歩いてもしかたがない。
そう思っていたけど、台所からじーっと観察されていたかと思うと、気が滅入ってきた。
とりあえず、翌日にホームセンターへ行き、黒いプラスチック段ボールを買ってきた。
それをカッターで切り取り、風呂場の窓枠にハメこんだ。
換気はできないが、覗きを心配するよりマシだ。
んで、台所をどうしよう?
台所の窓は、かなり大きいので、引越しに使った段ボールを分解し、ガムテープで貼り合わせ、いちおうすべてふさぐことができた。
はあ、疲れた。
でも、これで安心。
けれども、その翌朝、これまたふと自転車を見て仰天した。
例の自転車は、南側のスキマに入れて、自転車カバーをかけておいたのだが、そのカバーが……切り裂かれていたのだ!
カッターかナイフかわからんが、上部が斜めに大きく50cmほど切られていた。
ただし、自転車のサドルにキズはなかった。
こ、これは!
もしや、私が窓をふさいだことに対する報復なのだろうか?!