ウチの母ちゃんは、スイカが大好きだ。
いまから7～8年前、母といっしょにいたころ、私がスイカを買ってくると大よろこびしていた。
そのときは、母がサ高住に入居していて、私はサ高住の隣のワンルームマンションに住んでいた。
まあ、そういう形態を母が望んでいたから、そのときはそうだった。
いまでもよく覚えているけど、私がスイカを小さく切って、タネを取り除いて、器に入れて母に持って行った。
母は、とてもよろこんで、「おいしい、おいしい」と満面の笑みを浮かべ、足をトントン踏み鳴らしながら、そう、まるで「ちっちゃい子ども」みたいに食べていた。
そうそう、いつも「ちっちゃい子」みたいで、しかし、その当時の私は、そういう「ちっちゃい子」のような母を見ると、複雑な気もちになった。
まず、「かわいいな」とは感じる。
と同時に「こんなにかわいい女のコを、どうして平気で捨てられたのかな？」と思う。
母の実母(私の祖母)は、母が6歳のときに、家出してしまったからだ。
祖母の気もちは、もうまったくわからないけど、でもねえ、6年間飼ったネコとかでも、ネコ置いたまま、プイッといなくなったりしないでしょ？
エサとか水とか、いちおう心配するじゃん？
まあ、あっぱれなお祖母ちゃんだよね。
けど、そういうややこしい事情が、私にのしかかるみたいで、母を見て、ほんとにすなおに「かわいい」と思えなかったのだ。
なんつーか、え?! 私が「お母さん役」せんとあかんのっ?!って思うと、すっげえ重たかったのよ。
だから、私はスイカを食べられなかった。
スイカを好きか嫌いかもわからない。
ただ「スイカを食べることを拒否」したのだ。
なので、母にはスイカを持って行っても、私はかたくなにスイカを食べなかった。
ってな具合で、とうとう私は61歳、母は89歳になってしまった。
私は、スーパーでスイカを見るたびに、母が食べたらよろこぶだろうな、あの足をトントンさせてたの、かわいかったな、と思っていた。
今日、母と電話しているとき、
私「いっしょに暮らせるようになったら、スイカ買ってくるよ」
「スイカ、食べたい！ スイカ、もう3年食べてないよ～」
「えっ?! 施設でスイカとか出ないの？」
「そうよ、ぜんぜん出ないの」
「ひゃあ～、そしたら、ソコに居たら、一生スイカ食べられなかったの？」
「そうよ～」
うわ、スイカも食べられないのが、施設暮らしなのか……
いまの私は、はじめて、自分もスイカを食べたくなった。
なんかの罰ゲームみたいに「自分がスイカを食べることを禁止」していたが、もう解禁だ。
私も母も、いっしょにスイカを食べて、いっしょに足をトントンバタバタさせてみよう。
