「それをやったら、あとで痛い目に遭う」とわかっていながら、それでも踏み越えてしまう時がある。
今日の私がそうだった。
5:30、道の駅びえい「白金ビルケ」で目が覚まし、クルマの外をのぞくと切れ切れに青空が見えた。あ、これはひょっとして「望岳台」から十勝岳が見えるかもしれない! あわてて朝食も取らずに望岳台へ向かう。3日連続で通っているね。
すると、おお! 十勝岳がはっきり見えた! 昔も含めて5、6回は来ているが、ここで十勝岳の姿を見たのははじめてだ。噴煙が上がっているのもよくわかる。
こんなのを見てしまうと……当然のことながら登りたくなる。いまのカラダではきっと無理とわかっていても登りたくてたまらない。ほんの少しだけなら……、途中で引き返したらいいから……、そんな言い訳をしながらあとさき考えずに登ることを決めた。
それはともかく、ぜんぜん山登りの用意をしていない。かろうじて登山靴とストックはあるが、雨具も行動食もヘッドランプもない。ヤマをナメとんのか?とだれかに怒られそうだが、非常識な観光客よろしく、折りたたみ傘とクッキー少々と麦茶を持って歩きはじめてしまった。
しばらく歩いて上を見上げると、ああ、遠いわ、高いわ、十勝岳。ま、せめて途中の避難小屋まで行ければいい。
左のほうには、美瑛富士と美瑛岳。
右のほうには、惚れ惚れするほどうつくしい富良野岳。
うしろから来る「ちゃんとした登山者たち」にどんどん追い抜かれる。
ゆっくりゆっくりマイペースで登るうちに、お、小さく避難小屋が見えてきた。
はじめて出てきた道標。
登ってきた道を振り返ると、望岳台がずいぶん下のほうに見える。
曇ったり晴れたりだが、ときおり見える青空が強烈にきれい。
避難小屋は、見えてからなかなかたどりつかない。昔、ここの小屋はかなり古くて汚かった。きっと新しく建て直しているにちがいないから、それが楽しみで一歩一歩進む。
おお! やっぱり新しい小屋だ。バンザイ、やっと来られた!
いそいそとなかをのぞいてみる。昔もそうだったけれど、避難小屋の扉を開けるときは非常に楽しみだ。
板敷と土間があるいたってふつうの避難小屋だ。でも、新しいからきれいだねえ。十勝岳は噴火の可能性があるからか、ヘルメットがずらりと並んでいる。
土間のところにキノコ発見。
しばらくすると、外国人登山者が到着。英語でわいわい楽しそう。
十勝岳の山頂はずいぶん大きく見えてきた。いやしかし、さすがにこれ以上登ると足が故障するので、おとなしくここで引き返すことにした。避難小屋で敗退!
下りは望岳台に向いて降りるので、ずっとこんな眺め。ぜいたくだなあ。
振り返ると、十勝岳がモクモクと煙を吐いている。
さっきの道標からかなり下のほうで、ふたりの若い女性が登ってきた。ごくふつうの観光客でスニーカーでひょいひょい歩いている。登山靴じゃないのにすごいなあと感心していたら、「エクスキューズミー」と話しかけられてしまった。
う~ん、たぶん中国のひとかなあ? 私、英語はさっぱりダメなんだけど。しかし、どうやら現在地がわからないようだ。スマホの画面を見せてくれたので、私はおおよその場所を指差して「ひや、ひや」と言ってみた。
すると女性は「れふとへ行きたい」みたいなことを言っている。れふと? 左? ああ、そうか、美瑛岳のほうへ行きたいのかな? あっちはお花が見られるそうだし。でも、遠いよ! それに、もっと上の、道標のあるところで左に曲がるのだ。
それで、必死こいて「いふ ゆー うぉんと つー ごー れふと、ゆー もあ あっぷ あんど つー れふと」と説明してみた。でもなあ、このひとたち、バスの時間が決められているはずだよね?
それで「ほわっと たいむ ゆー りたーん?」と尋ねてみた。むちゃくちゃでも通じるもので、そのかわいい女性は「いれぶん!」と答えてくれた。え?! あと20分しかないじゃん! そりゃムリムリ。なので私は「ゆー りたーん、おんりー だうん! のー もあ あっぷ」と言ってみた。
すると「さんきゅー!」と答えて、たぶん彼女たちもムリとわかっていたようで、転がるように降りはじめた。あっという間にどんどん姿が小さくなる。うわあ、はじけるような若さだなあ。そのスピードだったら11時に間に合うはず。んでも、ころばんといてや。
さて、ふたりが20分で飛んで降りて行ったところを、私はゆるゆる1時間以上かけて降りる。そろそろヒザに違和感が出てきた。とくに左が悪いんだよね。
振り返ると、だんだん遠くなる十勝岳がやっぱりモクモク。
やれやれ、もうすぐ望岳台だ。
なんとか無事に下りてこられた。7:35出発~12:05到着で4時間半もかかってしまった。やっぱり下りはコタえるね。長かった。
またまた道の駅びえい「白金ビルケ」へ戻って、ハンバーカーを食べる。こういう大きなハンバーガーのことを「グルメバーガー」というらしい。おいしかった!
店内は空いていて快適だった。
道の駅付近が晴れわたっていたので、近くの「白金青い池」に向かう。
「青い池」という名称は、ホントそのまんまのなまえで、きれいなコバルトブルー。
ここも有名な場所らしく、観光のひとであふれかえっていたが、みんな撮影場所を譲り合っていて気もちよく写真を撮れた。
立ち枯れの木々が水面に映り込んでいてきれいだなあ。
立ち枯れの木も、見る場所によって白かったり黒かったり変化する。
奥のほうへ進むと、池は美瑛川へ流れ込んでいる。美瑛川も青くて「ブルーリバー」と言われているらしい。
これまで私は、混み合っていそうな観光地を敬遠していたけど、じっさいに来てみたらそんなに悪くないし気にならない。それにこのごろは外国人観光客が多いので、日本のよさを外国のひとにも知ってもらえてうれしい。北海道はだれが訪れてもすばらしいところなのだから。
今日も白金温泉へ。湯元白金温泉ホテル。早めに行くと露天風呂が貸し切りになると学習した。
夕方になると、ヒザがじんじんと痛み出した。やっぱりなあ……、ムリしすぎたんだな。でも「今日」登りたかったんだよね。その気もちはどうにも止められなかったんだ。十勝岳のモクモクが見えちゃったからね。あんたのせいやで、十勝岳―っ!
で、今夜もまた道の駅びえい「白金ビルケ」で車中泊、3泊目。
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