いままで1社だけ採用してくれたが、どう考えてもアノ工事現場事務所みたいな会社に行きたくなくて、昨日こっちからエラそうに「行きません」っちゅーて断っといた。
さて、その時点で、ああそうやな、就活そのものを大幅に見直そうかね? そもそも「やりたい仕事」があるから、それに関連のある職種にしようかな? そのためにはあらたに勉強せんとあかんな、もう本は買ってあるし、記憶術を復習してからその本をバーッと暗記していこうかな、とここまで段取りしていた。
ただし、先日ハローワークを通してもう1社だけ面接を取り付けてある会社があった。ホゲフガ商店という店だ。この商店の最大のメリットは「ウチからおもくそ近い」ということだ。たったの600mしかない。この近さに惹かれて応募した。
その600mぐらい、てめえ、歩けよっ!ってハナシなんだが、寒いからクルマで行った。お店の駐車場にクルマを停めて外に出たら、向こうからやってくる男性がいた。ワシのそばに来ると「面接のかたですか?」と言われる。
おお!このヒトが店長さんか! ひと目見た瞬間、あ、このかたはだいじょうぶと思った。ワシは「ホゲフガ店長さんですか? 春子です。どうかよろしくお願いいたします」とお辞儀をした。
お店のなかは、よく整っていてキレイだった。コレはけっこう繁盛しているところだな。店長も、店長の奥さんも笑顔で別室に案内してくれた。
まずは、履歴書についていくつか尋ねられた。どんな仕事やってたかとか、「父の介護」ってどうしてかとか。
ワシが「寝たきりになったからです」と言ったら、店長さん「いまはいかがですか?」と尋ねる。「いや、もう亡くなりました」と答えると、店長さんは「ああ、そうですか、それは……」と言われて顔をくもらせた。
いやいや、そのリアクションにびっくりしたわ。これまで何十社も面接受けたけど、「まえは介護してたけど、もう亡くなった」と言うと、むしろ「だったら、自由に仕事できるな」ってなニュアンスの会社ばっかりだったからだ。
ワシに対する質問が終わると、店長さんはお店について説明をはじめられた。それはじつにはっきりとした理念が感じられる経営姿勢だった。将来のビジョンも明確だった。すでにもう1店舗、隣県に開店しているという。自信を持って積極的に会社を拡大している意気込みがビンビン伝わってきた。
コレはいい会社だなあ、できればココで働きたいなあ。手を使う仕事でもないし、複雑でむずかしいものでもない。扱っている商品がちょっと特殊なのでめちゃくそ忙しいこともなさそうだ。なによりも店長さんが信念を持っていてすばらしい。
と思っていたら、店長さんがいきなり「それでは、採用させていただきたいと思いますが、いかがですか? 春子さんはよろしいですか?」と言われた。
えーっ?! もう決まり? てか、ほかに応募するヒト、待たへんでええんかいな? こげなババアを即決するなんて信じられへん!
ただ、その決めっぷりってのは、いかにもこの店長さんらしいとも思えた。おこがましいけど、きっと決断力があるかたなんだよね。ワシでかめへんって、この場で決めたんだと思う。
なにでワシも迷わず、「ぜひよろしくお願いします。ありがとうございます!」とアタマを下げた。
そのあと、初回出勤日を決めた。シフトは「火曜日休み」を確約してくれた。これでピアノのレッスンは心置きなく通える。奥さんはさっそく制服を何枚か持って来てくれたので、試着して選んだ。お店の駐車場は台数が少ないので徒歩で通うことになった。まあ、そのぐれえ運動せえよ。
あっという間に決まってしまったので、まだホントのことかどうか信じられない。26社もダメだったのに、決まるときには決まるモンだなあ。
けれども、こんなにトシ取ってるのに採用してくれたのだから、真剣にがんばらないといかんな。またクビにならへんように、こんどこそはできるだけ早く仕事を覚えて率先力になれるようにしよう!