昨日からすでに「パート行きたくない病」発症して、寝ているうちにいよいよ悪化して、起きたら泣き叫びそうだった。すさまじいほどぜんっぜん行きたくない。行く気が0.001ミリもない。ココまでイヤなのもはじめてで笑えた。こんだけイヤなのに行く準備してる自分がすばらしかった。
ほとほと感心しながらウチを出て、田んぼのあぜ道をウネウネとたどり、ホゲフガ商店の近所まで差しかかったら、いつものノラ猫がいた。キジトラのニャンコ。パート行くときよく見かける。そいでさ、いっつも鳴くんだよ、ミャアって。今日も寒いのに、地べたに丸くうずくまってる。
ワシと目が合うと「ミャアァァ」という。いつもそうだけどつい立ち止まってしまう。キジトラ、また「ミャアァァぁぁぁ」と上目づかいでか細く鳴く。あああ、こんな寒空の下、なーんて哀れなんだっ! イエネコはどこでもヌクヌクとコタツにでも入っとるというのに、あんた、なんてヒドい猫生なんだよぉっ!
あまりにかわいそすぎて、そのまま抱き上げてキジトラと駆け落ちしたくなったが、すんでのところで思いとどまり、ココロを鬼にして顔をそむけ、ホゲフガ商店に出勤した。まあね、かわいそうなのはオノレでございまして、てか!なんでこのトシになってパートすら行かれへんのっ?! ノラ猫でさえ丸一日エサを探す仕事しとるのにっ?!
ノラ猫にも劣る自分を罵倒しつつ3分後にはお店に到着、店長や先輩パートさんに新年のあいさつをして、まあとにかく制服に着替えようと思ってロッカー開けたら、うおっ!制服がなかった。年末、洗濯しようと思ってウチに持って帰ったまんまやった。
初出勤でこのありさま、いやあ、底抜けのクズやわ。やっぱりあれだけ「行きたくない病」が重篤だとこんな現象をまねいてしまう。あわてて店長にあやまる。「すんません、制服ウチに忘れてきよりました。すぐ取りに帰ります」 店長「ああ、自転車で行き。ゆっくりでええよ」。先輩パートさんのひとりがニコニコしながら、店用自転車のカギを持って来てくれた。
みなさんの思いやりにも関わらず、罪悪感でボロボロになりながら、自転車でウチに向かう。でもじきにペダルがこげなくなった。店出たらすぐにユルい坂道やってん。あかん、ぜんぜんこげへん。ワシ、自転車って51才から乗りはじめてん。しかも電動アシスト自転車しか乗ったことない。するとまあ、ふつうの自転車だったらめちゃくそユルい登り坂でもまったくこげないと判明した。
しゃーないんで自転車降りて押して歩く。自転車ではあぜ道入れないから遠回りで、登り切ったら下り坂になり、そこはまあすーっとウチまで行けたけど、ゲッ!お店戻るときゃ登りだよな。エラいめに遭うのうと思いつつ、とにかくウチんなか入って制服を探す。
ところがっ! 制服ないねん。汚部屋をかき回して捜索したけど、どっこにもあらへんっ! 15分は探しまくった。もちろん洗濯機も見た。トイレとフロまでのぞいた。引っ越し段ボールも開けてみた。もしかしてと思ってクルマのなかも見に行った。でもないねんっ! さすがに茫然とした。いや待て、年末の行動を冷静に思い出そう。
う……もしかして、お店の更衣室に忘れとるかも。どこまでアホやねんと死にたくなりながら店長に電話した。「す、すんません、更衣室に置き忘れてるかもです」
店長、先輩パートさんに見に行かしてくれた。待つことしばし……「あるわ。春子さんの名札ついとるヤツ、あるわ」
ああ、やっぱり。ワシ、平あやまりにあやまったけど、店長「気ィつけておいでな」と言ってくれる。なんかもう、いっそのこと怒ってもらったほうがええとまで思うけど、せっかくの気もちだから、しおしおと自転車を押し歩いてお店までもどった。結局始業時刻より16分も遅刻してもうた。
仕事はあいかわらずしんどかった。連休のあとだから、忘れてることも多かった。お客さんの顔と名まえは「ストアカ/シンが教える記憶術」セミナーのおかげで、かなり歩留まりがよくなったけど、仕事全般やっぱりすごく遅い。まだまだ慣れない。どう考えても時給の半分ぐらいしか仕事できてない。
すると「こんな自分はダメだ病」が発病してもうた。店長も先輩さんもだれひとりワシを責めてないっちゅーのに、ワシは勝手にオノレを責めつづけてもうた。少しは心理学を勉強してるから、こんなのは「マボロシ」だとわかっているけど、いやあ、スゴいねえ、とりあえずオノレをシバいとったら、だれからも怒られないハズってループがぐるんぐるん回ってて、ぜんぜん抜け出せなくなった。
ああ、このループをいつか焼き切りたいのうと思いつつ、すべてをあきらめきって惰性で仕事してた。そしたら、夕方店長に「ちょっとスタッフルームに来て」って言われた。
うわ、ついに来た。また、クビになるんやな。
別室で店長とふたりになった。店長「忘れんうちに、はい、コレ給与明細。それから、制服の予備まだ渡してへんかったな。コレ使ってな」
そう言って、店長は制服をもう一組差し出してくれた。クビになるんじゃなかった。怒られもしなかった。
お店は忙しかった。終わったのは夜8時半だった。夜道をとぼとぼ帰りながら、ああ、こんなにええヒトばかりに囲まれているのに、なぜワシは仕事を好きになれんのやろうとまだオノレを責めつづけて楽しんでおった。
ウチに帰ったら、こんどは「暗譜ができない病」が再発した。「シューベルトにかまけてツェルニーとバッハ放ったらかしで、なのに明日はレッスン病」も併発した。
やっぱりキジトラといっしょにどこか遠くへ行きたくなった。