マシンガントークから学んだこと|パートの先輩と大ゲンカ その2

「あたしな、運転するほうが好きやねん、助手席落ち着かへんねん」と言うなり、Fさんは私のクルマの運転席に乗り込み、後部に自分の荷物を放り込んだ。

Fさん「このお花はつぶれたらあかんから、春子ちゃん持っといて」
私「わ! きれいな鉢植えですね。でもどうして?」
「いやだって、ウチとこの会社売り上げあがっとるんやろ? んで、社長が今日ごちそうしてくれるやん? お花ぐらいいるやん? 奥さん喜ぶで」

えーっ?! すごい気配りやわっ! 私もほかのひとたちもだれも思い浮かばへんかった。
私「Fさん、さすがですね、よう気ィききますね」


「当たり前やん」とFさんはさっさとエンジンかけて、手慣れたようすで右手のひらだけでくるくるハンドルを回し、あっという間に駅のロータリーを抜けて道路を走り出した。それそれ、私はその「片手でくるくるハンドル」やるのにめっちゃあこがれてるけど、教習所の先生が「あんなんマネしたらあかんよ」っつってたから、いまだにようせんねん。

しかしなあ、よくまあ他人のクルマをいけしゃあしゃあすんなりと運転できるもんだね。私「Fさん、クルマ好きなんですね、いくつのときに免許取ったんですか?」

「はたちやわ。うん、でもすぐ慣れたで。ほんでな、さいしょに乗ったクルマはな、……」Fさんは、当然のようにバックミラーを動かしながら答えた。おいこら、そのミラーはちょっきし合わしてあるヤツやから触らんといてやと思ったが、いや、なにも言わんとこ。

で、ここから私は「傾聴トレーニング」をすることにした。ま、傾聴なんてぜんぜん知らへんひとでも、Fさんとしゃべってたらみんな自動的に傾聴モードに入っとるわ。そらもう、どエラいいきおいでしゃべり倒すひとやねん、Fさん。


私もまずまず傾聴やってきたけど、ここまでマシンガンのごとくしゃべりつづけるひとははじめてだ。「そうなんですねえ」なんて悠長に言うてるヒマあらへん。アタマをめまぐるしく働かせてピンポイントでキーワード拾って伝え返しするのがせいいっぱいだ。

ただ、私は「自分史制作の仕事」を将来やるぞ!とこないだ決心したばかりなので、その練習と思い、なるべくFさんが「自分の人生について、よかったなあ」と思えるような方向性で傾聴することにした。

ほんでもめっちゃタイヘンやった。「ああ、軽はかわいいし」「クラウンおっさんですね」「人間国宝ね」「豆腐屋さんおトシねえ」「笑かしたんですね」「そっちが安くて」「お姉さんがね」「買ってもらって」「うん、じょうずにできて」とか、そういうのを40分間フルにがんばった。

いや、あらためてびっくらこいたけど、自分のことしかしゃべらんひとっておるんやねえ。ほんま、私ひと言もしゃべってへん。ただ、私が気ィ使わずにほんとに話したいことって、Fさんにはまったく興味がないモンばかりで、それはFさんに限らずほかのひとに対してもそうで、そうすると傾聴するしかしょうがない。


私は私で「何気ない日常会話」はものすごく苦手だ。話題が思い浮かばない。無難なのは天気だろうけど、天気予報をめったに見ないから、せいぜい「暑いですね」「寒いですね」「晴れてますね」「よく降りますね」「曇ってますね」の数パターンしか持ち合わせていない。

なので、できるだけ相手しゃべってもらおうとするんだけど、それずっとやってると、こんどは自分に不満が溜まってハラが立ってくる。「相手がしゃべっている時間」と「自分がしゃべっている時間」をちょうどおんなじにして欲しい。でもまず実現しない。なんかいつもすごく損した気分になる。

けれども「傾聴」が将来自営業をはじめるためには必須とわかったので、Fさんの話を聴くのはわりとマシだった。疲れたけどね。話好きなひとは「話すことそのものに慣れている」から、やっぱりそれなりにウマいんだよね。自分でしゃべりながら自分でツッコミ入れてるし、そのツッコミを返したらいいだけとかで済む。

Fさんの運転操作もおもしろかった。ああ、そんなに車間距離詰めるんやなあ、話に夢中でハンドルから両手離していてそれでもクルマはまっすぐ進むんやなあ、急坂でクルマがゼイゼイ言うてても平気でアクセル踏んでええんやなあ、クルマ好きのひとは左手ずっとシフトレバーに置きっぱなしなんやとか、いろいろ勉強になった。


ただねえ、たぶんなんでもそうだけど、「ずーっとそんな感じ」ってのは飽きてくるね。Fさんって「ずーっとハイテンション」なんだけど、それが長い時間つづくとやっぱり飽きる。Fさんにしたら、どの話も同じように強調したいんだと思うが、それを「ずっとやっている」と、聴き手は「どれがいちばん言いたいことなのか?」がわからなくてげんなりする。

それは、まさに私のピアノもそうなんだよね。
こないだも先生に言われちゃったよ。「ぜーんぶそうやってしまうと、結局どこが大切なところかわからなくなるんですよね」って、モーツァルトでもショパンでもご指摘受けた。

たとえば、このショパンワルツ第9番「告別」変イ長調 Op.69-1がちょうどそんな感じ。10月19日に録音したヤツ。

ちょっと聴いた分にはなんとかなっていても、ほんとこれは「飽きる」わ。「またかよ?」って思うわ。いっつもずっとねっちょり同じ調子だと、ハッとしたり意外に思ったりできないよね。結局聴いているひとが飽き飽きするよなあ。

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