北海道放浪48日目|だからこう生きたらいいと示してくれた北のアルプ美術館

8:00起床。車内温度18.8度。相変わらず雨が降りつづいている。そろそろ太陽が恋しくなってきた。でも、クルマさえあれば濡れるわけでもないし、格別に雨をいとわないで済む。

父親ゆずりで、私はもともと食べることに関心がうすかったのだが、今回の放浪旅では積極的に外食するようにした。するとその結果、あ、レストランやカフェで食事をするっていいもんだなあと思いはじめている。

料理が苦手なので、自分ではせいぜいゆで玉子しかつくれない。だから日常のごはんは全部スーパーの総菜ですましていたけど、そうではなくて、レストランでちゃんとした食事を取って、そのあとのんびりコーヒーを飲みつつぼーっと過ごすと、けっこうしあわせになれるもんだと、いまごろになって気づいた。

健康でカラダが自由に動くうちにせいぜい食べておこう。というわけで、斜里町にある「しれとこくらぶレストラン年輪」へ。

大きな暖炉が据えてあり、

雨でお客さんも少なく静かな店内。

地元サチク赤豚のしょうが焼きがメインの幕の内。野菜も魚も地のものばかりで、手作り感のあふれるそぼくな味わい。

さて、ガイドブックにもとくに載っていない美術館だが、山が好きなひとなら訪れるであろう「北のアルプ美術館」へ行く。

昔「アルプ」という山の文芸雑誌があり、すでに終刊になっているものの、いまだ惜しむひとたちがこうして美術館として残している。

私はその雑誌のなまえに聞き覚えがある程度だが、代表者である串田孫一のエッセイは以前よく読んでいた。

説明に、手書きのレタリング。

雑誌アルプは、昭和33年に創文社から創刊された。串田孫一(1915-2005)が代表となり、おもな執筆者に尾崎喜八、畦地梅太郎、深田久弥、内田耕作、山口耀久、三宅修、大谷一良、岡部牧夫。
私は半分ぐらいしか知らない。

尾崎喜八は少し読んだことがある。肉筆原稿。

その尾崎喜八の「お花畠」という詩に、ああ、そういうことか、それだけでいいんだなあとひどく感銘を受けた。


お花畠
いちばん楽しかった時を考えると、
髙山の花のあいだで暮した
あの透明な美酒のような幸福の
夏の幾日がおもわれる。


ほんとうにそのとおりで、自分の過去をふりかえっても、夏山で花に囲まれていたときがいちばんしあわせだった。一点の曇りもなくただ「至福の喜び」に満たされていた。

だから、また山に還ればいいだけで、それも昔みたいにガシガシ登らずに、山の香りがする処へ行けばいいだけなんだ。

串田孫一の詩「春愁」の冒頭。

「静かに賢く老いる」とは、もしかすると、自分はなにによって満たされるのかを悟り、その僥倖に感謝することなのかもしれない。

古書の酸っぱいにおいを嗅ぎながら、

絵や書をながめたり、

元は寮だったというこの古い建物のきしむ廊下をうろついたり、こんなになつかしく慕わしい空間があったとはねえ。

串田孫一の展示室はとくに充実しており、

圧巻だったのは、仕事部屋をそっくりそのまま復元しての展示。

机上の文房具にいたるまで忠実に復元されているという。

途中で、管理人の女性がコーヒーをふるまってくれた。長居して申し訳ないが、ありがたくいただく。

串田孫一の写真を見たことがなかったけど、若いころの写真が、私の好きなピアニストに少し似ているなあと思ったら、

晩年のころの写真もやっぱり似ていた。

串田氏は音楽にも造詣が深く、愛用したハープもひっそりと置かれていたし、

レコードの解説も数多くあった。

もういちど山のエッセイを読みたくなったので、この「ちいさな桃源郷」を買った。

雑誌アルプから、ドイツ文学者池内紀が選んだ33篇がおさめられている。寝るまえにちびちび読んでみよう。

なにかと気づかってくれた管理人のひとは、「ことしは夏がみじかかったですね」と言う。ああ、やっぱり北海道の夏はもうおしまいなのか。
富良野、美瑛でずいぶん暑かったと思ったけれど、そう感じたのは10日間ぐらいだったかな。

美術館からすぐ近くにある道の駅「しゃり」。雨のせいか閑散としている。

その雨は、夕方からますます激しくなってきたし、風も強まり車体が絶えず揺れるほど。テントなら吹き飛ばされる心配で一晩中ハラハラするところだが、まあクルマならどうってことない。

明日は最低気温12度、最高気温15度の予報。寝袋にしっかりくるまって寝よう。

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