やっとしゃべってくれた|二人暮らし 2日目

インナーチャイルドとは「自分の心のなかにいる、傷ついた子ども」である。

とてもよくわかる記事が、大塚あやこさんのブログに掲載されていた。

インナーチャイルドとのつきあい方1・忘れてしまった過去に鍵がある|自分にOKを出して前に進む!大塚あやこさん

インナーチャイルドとのつきあい方2・いちばん元はシンプルな感情|自分にOKを出して前に進む!大塚あやこさん


その私のインナーチャイルドちゃんが、どういうわけか1月16日から「イメージとして見える」ようになった。いきなりねえ。しかもこのややこしい時期にねえ。これ、ピアノ発表会の前日じゃん。

発表会まではずーっとタイヘンで、だからやるべきことはぜんぶ「発表会のあと」にめじろ押しで、予定として組んであるものは順次「発射ボタン」を押下していっている。いきなり「打ち上げ失敗空中分解」とかもあるけど、いやなに、「起こることは必然」ってどこのセミナー行っても言われるっしょ? だからめげない。

でもさ、そういえばパート、クビになりかけてたんだよね。忘れてたわ。なんかちょっと前にだれかに「そういうことをしていると、自分の身をほろぼすよ」って言われたけど、え? このぐらいで自滅してたら、こないだの発表会はどないなるねんっ?!

人前でピアノ弾いてあんだけまちごうたらね、仕事の失敗なんか吹けば飛ぶようなもんだなあ、体感として。まあ、クビにするしないは私が考えることじゃない。これまで通り、自分にできることをせいいっぱいやるだけ。就活はクビになってからはじめよう。手が回らないんだよ。


で、いま目の前にいるのはインナーチャイルドちゃんである。この子を放っとくわけにいかない。

チャイルドちゃんが形成されるのは5才くらいまでのあいだらしい。だから、その「傷ついた子ども」(=感情)を私は半世紀以上延々と持ちつづけてきた。

そんなに長いあいだ潜在意識に沈み込んでいたヤツだったら、変化するのもそれなりに時間がかかるだろうと決めつけていたが、案外そうでもなかった。

あらわれた当初、あんなに泣きわめいて身体をよじって叫んで、涙とハナとよだれでおもくそ汚いガキだったのに、いまそばに見えているチャイルドちゃんはびっくりするほどかわいくなってきた。

ぱっちりお目々で長い髪、4つぐらいの女の子だ。そろそろ猫が負けるかもしれない。猫飼ったことないけど、猫好きなんで。猫よりかわいい生きものは生息しないと思ってたのだが。


今日午前中は病院へ行った。更年期障害の治療してるからね。チャイルドちゃんもクルマに乗せて連れて行った。

だんだんチャイルドちゃんの好きなことがわかってきた。まず、手をつなぐこと。歩いているときも座っているときも、私と手をつなぎたがる。だから、いつもつないであげる。

それから、アタマをなでてもらうこと。アタマをやさしくなでて「春子ちゃんはいい子だねえ」って言ってあげると、ちょっとゴキゲンになる。でも、まだ笑わない。

さて、病院の受付でスタッフさんの愛想が悪かった。私は少しばかりむっとした。でも、手をつないでいるチャイルドちゃんを見下ろしたら、もう泣いていた。涙をポロポロこぼしている。わっ、このぐらいのことで泣くんだって驚いた。

あらためて思ったけど、そうか、これまで「私が、だれかから不愛想に扱われたとき」→「チャイルドちゃんは、いつも泣いていた」のだ。なるほどねえ、泣くほどつらいことのように感じていたんだね、潜在意識では。


待合のイスに座ってから、チャイルドちゃんをよしよしとなぐさめる。だいじょうぶだよー、だれも春子ちゃんをいじめてないよー、春子ちゃんは悪くないよー。

チャイルドちゃんはわりと早く泣きやんでうつむいていた。その子の肩を抱いて、よしよしとなでつづけてあげる。

あれ? 前にもこうやって、よしよししたことがあったなあ。そうそう、もうだいぶん前になるけど軽い認知症になってた父ちゃんをクリニックに連れて行ったとき、ずーっとよしよししてあげてた。待ち時間が長いと不穏になるから、それをやわらげるためにずっと肩をなでていた。

いろんな記憶や感情がふっと浮かんでは消えていく。なんだか「心の深い部分」とツーツーだなあ。このツーツーでね、ピアノを弾きたいなあ。


さて、診察が終わって会計までかなり待たされた。するとチャイルドちゃんは機嫌悪そうにゴソゴソしたり足をバタバタさせる。私は「うんうん、べつに騒いでかまわないよ」と言った。チャイルドちゃんはチラっとこっちを見たけど、ぷいっとあっちを向いてふてくされた。

おっと、このぐらいのときからスネるんだねえ。感心する。

スネていても、手を差し出すとつないでくれる。機嫌をそこねたチャイルドちゃんをクルマに乗せてスーパーへ行った。駐車場で、いちおうチャイルドちゃんに訊いてみた。

「春子ちゃんはなに食べたいかなあ?」
「……豚まん」


えっ?! は、はじめてしゃべったよっ! ずーっと無言だったのにしゃべったわ! それが「豚まん」かよっ?!

ちなみに私本人は豚まんなんてぜんぜん食べたいと思ってなくて、ここで豚まんかー、潜在意識ってすげーなーって感動した。

いっしょに手をつないでスーパーで豚まんを探す。すぐに見つかった。するとこんどはチャイルドちゃんが「プリンもー」と言う。

そうかそうか、おお、プリンでもなんでも買うたるで、と私はまるで孫のいいなりになるばあちゃんみたいに、チャイルドちゃんをスイーツ売り場へいそいそと連れて行った。

チャイルドちゃんはじーっとながめていた。私は内心、値引きシールの貼ってるヤツだとええけどと思ったが黙っていた。しかしチャイルドちゃんが指差したのは定価198円もするゴテゴテ飾り立てたプリンだった。お、おう、かめへんで。


うちに帰って、いっしょに食べる。チャイルドちゃんが座るのにデジピのイスがちょうどいいので、机のところに常駐させてある。ふたり並んで、豚まんとプリンを食べる。

「春子ちゃん、おいしい?」
「うん」

チャイルドちゃんは食べるのに夢中で、こっちを見ていない。

私はチャイルドちゃんのアタマをなでて「いい子だねえ」とつぶやいた。

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