えーっ?! いまどき水道のない家ってあるのっ?!
そのとき、ふとアタマをよぎったのは、あるピアニストのことだった。
もう引退したブレンデルは、1931年生まれ。
現在、なんと92歳だ。
先日ツイッターで、ある人が近況を知らせてくれていて、それによると、「ベートーベンとゲーテを研究中」だそうだ。
で、そのブレンデルが、まだ若き19歳のとき、はじめてウィーンに出てきたとき、ピアノを持っていなかったんだよね!
ブレンデルは対話録で、19才の当時を振り返ってこう言っている。
「でも最初の頃は楽器を置く場所がなく、グランドピアノすらない状態でした。
外の廊下に『水場』があって、バケツで水を汲んでこなくてはなりませんでした。
そして何年もの間、ピアノのある他人の家で練習をさせてもらっていました」
ピアノもない、水道もない!
私はまだ、グランドピアノがある。
水道ないぐらいで、文句言うてどないすんねんっ?!
そしたら、不動産屋さん、こう言った。
「水道はないんですが、井戸はあります」
私「井戸っ?! じゃあ、井戸からバケツで水汲んでくるんですかっ?!」
「いえいえ、井戸から電動でポンプアップしていて、ふつうの水道みたいに、蛇口をひねったら水は出ます」
そっかー、ブレンデルのマネして「バケツで水汲み」やったら、ちったあ、ピアノがウマくなるかと思ったけど、そうもいかなかった。
不動産屋さん「それと、トイレは汲み取りです」
うむ、だんだんわかってきたぞ。
要するに「山小屋」みてえな按配なんだ。
山小屋も水道なんかなくて、「天水」といって、雨水を貯めて利用している。
トイレは、もちろんボットン。
そりゃそうだよ。
下水道なんてインフラは、税金の採算が取れるところにしか、引かないよな?
不動産屋さん「井戸水を維持するために、毎月自治会費1,000円が必要です。
ゴミは、ふもとの町まで、自分で持って行くことになります」
私「あのう、ネットって使えるんですかね?」
「わかりません」
「携帯は?」
「わかりません」
げっ……なんか、世の中すべてから隔絶されすぎてへん?
でも、別荘ってそもそも「非日常」を楽しむとこだから、それで正解か?
ともかく内見に行く。
当日、またまた楽器店スタッフさんが、防音の必要性判断のため、同行してくれる。
現地のふもとに近いスーパーの駐車場で、一同待ち合わせをした。
すると、不動産屋さんが私に向かって、
「すみません、僕のクルマ、ナビがついていなくて。
ゆるいさんが一番先頭を走ってもらえますか?
ものすごく狭い急坂なので、気を付けてくださいね」
えーっ?!
あ、あたいがみんなを先導すんのかいっ?!