その物件は、住宅地からやや離れてポツンとある一戸建て。
ネットでそのページの備考欄に「心理的瑕疵あり」なーんて記載があったら、当然興味津々だ。
すると不動産屋さんは、やや声を落としてこう言った。
「〇吊り自〇があったんです」
ふうん。
「十数年前に、その事件があって以来、だれも住んでいません」
なるほど。
でも、私の家系って自〇は多いし、他〇もあるし、わりと「ふうん」って思った。
不動産屋さん「近所のひとたちは、どういういきさつがあったのか、みなさん、知っています」
まるで「そんなところに、ほんとに住むんですか?」と言わんばかりの口調だった。
そしたらさ、私の中にムクムクと反抗心が湧いてきて、
「わかりました。でも、内見はしてみたいですね」と言い切った。
で、いったんウチに戻ったが、まあ、少しは考えた。
べつに、そういった亡くなり方はめずらしいわけじゃない。
ただ、引っかかったのは、「十数年前の事件」なのに、いまだ住むヒトがいないということだ。
「大島てる」サイトを調べたら、その物件にちゃんと「炎のマーク」が付いていた。
うむ、大島てるにも、だれかが報告しているのだ。
つまり、多くのヒトがなにかしらずーっと「怖れ」を抱いている物件なのだ。
それはねえ、まあ、「なにか」があるんだろうね、きっと。
それほどの「念」みたいなモノが、まだ消えずに残っているのかもしれない。
いま思うと、不動産屋さんは、その時点で内見をあきらめて欲しかったんだろう。
しかし私は、翌日シレッと不動産屋を訪れて、クルマで現地を案内してもらった。
現地近くは、古くからの住宅が立ち並んでいた。
あちこち曲がりくねった細い道だの、古びた屋根瓦の家だの蔵だの、ああ、むかしからある、ちょっと大きめの集落なんだな。
そういった建物の集まりから、ごく細い路地を通り抜け、そのまた先の細々とした道の奥に、くだんの「事故物件」はひっそり建っていた。
たまたまその日は快晴で、抜けるような青空のもと、アヤしい雰囲気は微塵もない。
古びた建物であるが、朽ち果てた様子もなく、わりといい建築ではないかという印象だった。
不動産屋さんが、玄関の扉を開けると、カビ臭いニオイがプウンと鼻を突いた。
真っ先に気になるのが「事件のあった部屋」だが、不動産屋さんはなにも言わないのでわからない。
1階には、古めかしい和室がふたつ、それとキッチン。
キッチンは洋間なのだが、流し周辺がトテツもなく汚れ果てていて、仰天した。
いや、和室とかはふつうにキレイなんだよ。
障子とかフスマは破れているけど、畳なんかはまあまあ。
しかし、流しやコンロのあたりが、原形がわからないほど、大量の汚物で埋まっていた。
あのう、いちおう賃貸募集してるんだったら、ある程度、掃除したらいかがでしょうか?
2階に上がると、そこは和室がふたつで、やっぱりそんなに傷んでいない。
ただ雨漏りは数ヵ所見られた。
そうそう、今回もまた、楽器店スタッフさんが現地に直接来てくれていて、スタッフさん、果敢にも床下を懸命に調査してくれていた。
楽器店さん「床の補強は、しなくてもいいでしょう」
私「ほう、それは助かりますね。
でも、こんなに他の住宅から離れていても、防音は必要なんですか?」
「はい、周りが田んぼでさえぎるものがありません。
すると、音はやはり聞こえてしまうので、ココでも防音しないとダメですね」
くぅぅぅ……どうしても、防音100万円は必要なんだなあ。