病院へは、毎日手紙を届けに行っているものの、今日は向かうのに気が重かった。
というのも、2週間前に面会したときは、かなりやつれていたからだ。
ほんとは「年を越すまえに『お迎え』」と宣言されていた母。
とうとう本格的に延命治療として、いまは「鼻チューブ(経鼻胃管)」で、人工的に栄養を摂っている。
だが、放っといたら、とっくに三途の川を渡っていた身だ。
チューブで栄養を入れているとはいえ、全身の状態はおとろえに逆らえないだろう。
と、やや気が滅入りつつ、母の病棟である5階に上がった。
詰所で名まえを記入して、看護師さん「そこのソファーでお待ちください」とのこと。
そしたら、じきに車椅子に乗った母があらわれ、
「まあ~、春ちゃん、会いたかったわ~!」と大きな声を張り上げた。
うっ、な、なんかすっげえ元気ちゃう?!
さすがに車椅子は、自分で動かせないようだが、車椅子の上でも、背筋をピンと伸ばして、ずいぶん達者な様子だ。
2週間前とは見違えるほど、かなり回復している。
なによりも肌のツヤやハリがぜんぜんちがった。
ややふっくらとして血色もいい。身のこなしもごくふつうだ。
うわあ、完全栄養剤を毎日摂っていると、こんなにもちがうのか?と仰天した。
で、しゃべるわ、しゃべるわ、なんぼでも。
リハビリ、毎日やってるんだって!
まあ、しんどくてやりたくないけど、
「私、ぜったいオムツ使いたくないから、やってるのっ!」と、でっかい声で言い張った。
そりゃま、介護する私は、トイレに行ってくれたら、すんごく助かるけど。
それにしても、ほぼ1ヵ月、人工栄養を摂り、徐々にリハビリをしたら、こんなにも変わるのか?!
いやあ、延命治療しといてよかった、よかった。
てか、ほんまに終末期かねえ?
身振り手振りをまじえてしゃべって、キャッキャはしゃいで、たまに天井あおいで大笑いしている母ちゃん見てたら、あのさ、去年さ、主治医先生が「おうちで看取ってください」言うてたけど、ソレ、ほんまっ?!
ま、要するに「個人差がおます」ってことだね。
90歳だからって、一律「自宅にお持ち帰り → お迎え」コースに乗せるのは、どないだ?
もうどうでもいいけど、こんなに母が元気を取り戻して、ほんとに安心した。
これなら、まもなく胃ろう造設手術をしても、たぶんだいじょうぶ。
シロウト目にも、15分ぐらいの内視鏡手術ならイケるでしょ、みたいに感じた。
いやいや、鼻チューブは違和感が強くて、気もち悪いはずだが、よくがんばってくれているよ。
で、テレビを勧めてみたら、「そうしようかな」と言ってくれた。
なにもしないのは、余計しんどいだろうし、テレビでも見たら気がまぎれるだろう。
看護師さんに頼んだら、すぐに用意にかかってくれた。
母ちゃん、イヤホンがあかんから、テレビ嫌がってたんだがね。
ああいうの、耳に入れるのがあかんのよ。
しかしなあ、鼻から胃にずーっと管入れっぱなしで、なんとかなってるんだから、イヤホンだろーが、なんだろーが、このさき、ナニをドコに突っ込んでも、ぜんぶイケまっせ。