退院してから2ヵ月経ち、母は、自宅に帰っての生活に慣れてきたようだ。
わずらわしく騒々しい病院から、急にウチへ帰ってくると、それはそれで環境が変わりストレスだ。
けれども、ここ最近はすっかり落ち着いてきて、
「夜もね、ほとんど毎晩ぐっすり眠れるのよ」と言っている。
そしてまた、もう口から食べることも、あきらめてしまった。
入院中、去年12月下旬から鼻チューブ(経鼻胃管)で栄養剤を摂りはじめ、今年1月中旬に胃ろう造設。
それからずっと胃ろう注入でしか栄養を摂っていない。
「口から食べたい」という気もちがぜんぜんしないのだ。
まあ、要するに「食欲がゼロ」。
それはだねえ。
結局「老衰」なんだよね。
身もフタもないけどさ。
もう身体とか臓器の耐用年数が来ちゃっているのに、ソレを胃ろうでがんばって「延命」している。
なんだけど、「完全栄養剤」の効果はめざましく、なんとこのごろは、髪の毛が黒々としてきた。
白髪の割合がグッと減って、ええと、私とあんまり変わらないぐらい。
ネットで見ていても、胃ろうにした高齢者が、おなじように白髪が減ったとか、髪の毛が生えてきたという情報がある。
母は、肌の色つやもよくなり、見るからに健康そうだ。
歩けないのに健康ってのもヘンだけど。
週に一度、訪問診療でお医者さんが診てくださるが、
このごろそのたびに「お元気そうですね」だの、「ゴキゲンでよかったですね」なんておっしゃる。
ホラ、お医者さんがそう言われるんだから、私の印象もまちがいじゃない。
胃ろうで最適な栄養を摂れて、すっかり元気になり、なんつーか「有意義な延命治療」に思えるよ。
いま母が注入している栄養剤は、アイソカル100とラコール。
「完全にソレだけで生きられる液体」なんて、まるでSFみたい、と私は感心するのだが、べつにアイソカル100は、アマゾンでピッと買って、ふつうのヒトでもすぐ飲める。
つまり、栄養に関してはなんにも問題ない。
ただ「食べる楽しみ」がなくなってしまった。
しかし、そもそも食欲という「欲」がないと、欲の先にある楽しみをもう期待しないんだよね。
興味深いことに、母を見ていると、「『欲』が消失してしまうと、過去に楽しかったコト(食事)すら、もうアタマに思い浮かばない」ってのがよくわかる。
なので、「欲」というのは、人生を多彩にする役割を果たしているのかもしれんな。