母90歳。
その長い人生において、いちばん楽しかったのが、中学高校時代。
4人の友だちとずっと仲がよくて、学校の行き帰りはかならずいっしょだったという。
卒業してからも、そのうちのひとりとは社会人コーラスに行ったり、機会があればみんなで集まったりと、ほんとに仲良しグループだった。
しかし、十年ほどまえから、ぽつぽつ年賀状仕舞いの便りがとどき、いまでは全員まったく音信不通になってしまった。
ことあるごとに、母は、
「みんな、どうしているかしらねえ」とため息をついている。
私「そりゃまあ、みんな90歳でしょ?
それなりにいろいろあるんじゃない?」
母「もう何年も、どうなっているかわからないわ」
「う~ん、私が高校に問い合わせたとしても、いまは個人情報ウンヌンで教えてくれないだろうし」
「……だよねえ」
私「じゃあ、来年に私が、年賀状出してあげようか?」
「いやいや、それ、みんなもらってもお返事タイヘンだし」
「てか、べつに年賀状じゃなくて、いまから往復はがきでも出そうか?」
「往復はがきぃ~?」
「そうそう。
返信のほうは『1.生きています。2.死にました。』のどっちかマル付けるだけにして」
「ちょ、ちょっと、やめてよ~!」
「ついでに『現在の要介護度は?』とかも書いといて」
「ぶははっ! 市役所じゃあるまいし!」
「いいじゃん、母ちゃんも
『私は要介護4の寝たきりです。もう胃ろうになりました。
あなたはまだ口から食べてますか? それとも鼻チューブ? 胃ろう?』
それもマル印でイケるようにしてさ」
母「も~~っ! 春ちゃんのハナシはオカしすぎるわっ!」
「だってさあ、みんな、どうしてるのか、知りたいんでしょ?
家族のだれかが、マル付けて返してくれるよ」
「い、いやよ。さすがにそんなヘンなこと、したくないわっ!」
そっかー、私なら、どうしても消息を知りたかったら、往復はがき方式でやっちゃうんだけど。
ふつーに良識があるヒトは、そんなんやらねーんだ。
でもさ、もう90になるのに、知りたいことも知らないでいい、やりたいこともあきらめる。
ふうん、そんなんでいいのかな?
私としたら、まだいまのうちにデキることをどんどんやってほしいから、いろいろ探りを入れている。
けど母は、
「いま、こうしておうちでゆっくりできるだけでいいの」と、ああ、ほんと無欲になっちゃった。