「病院では、自分で歩いてトイレに行けていたのに」としょっちゅうお嘆きのお母さま。
このヒト、リハビリが大嫌いなので、「リハビリ関連の回路」が働かないんですよ。
以前からしばしば「病院では歩けていたのに、ウチに帰ったら、あんなに近いトイレへ行けなくなった」とおっしゃる。
母「おかしいわね、どうしてウチに帰ったら、歩けなくなったのかしら?」
その質問、じつは10回ぐらい訊かれている。
私も説明するのがメンドくさい。
ええと、認知症のヒトって、こんなふうにおんなじことばっかし言うのかね?
私「それはだね、う~ん、じゃあココでクイズです!」
母「はぁい」
「病院ではほぼ毎日やっていたけど、ウチに帰ったらやっていないことってなーんだ?」
「……???」
「ホラ、病院だったら、毎日やってたよ」
「トイレ?」
「いやいや、毎日ベッドに来てくれたり、別の部屋に行ったりしてさ」
「…………あ、リハビリ?」
私「ピンポン♪ピンポン♪、大正解っ! エラいねえ」
「ふうん」
「そうなんよ、病院で歩けていたのは、毎日リハビリをしていたからだよ。
でも、おうちに帰ったらリハビリしていないでしょ?
筋肉は使わないとどんどん衰えちゃう。
だから、いま歩けなくなってきたんだよ」
「そんなの、ヤだあ!」
「でも、リハビリもヤでしょ?」
「うん、リハビリもヤだあ!」
「まあ、リハビリしんどいから、べつにやらなくていいよ。
ただ、ちょっとずつデキないことが増えちゃうんだよ。
けど、それはしぜんなことだから、まあ、なんとか折り合いをつけていくというか」
足腰を現状維持するためには、リハビリしか方法がないようだね。
母は、そのリハビリが嫌いというか、リハビリを信用していないから。
リハビリねえ……
ベッドの上で、足の曲げ伸ばしだったり、つま先を上下に動かしたり、ヒザ下を下方に押し付けたり。
そういうの、訪問リハビリでほんの少しやったけど、母にしたら、
「どうして、そんな体操で歩けるようになるのか、わからない」とのこと。
う~ん、なんかピアノのハノンを思い出したぞ。
ハノンを延々やって、どうして曲が弾けるようになるかわからん、みたいな。
いやあ、私はオトナになってピアノを再開して、ハノンとか練習曲が「非常に重要」と骨身に沁みてわかったけど。
地味にハノンや練習曲を毎日やると、曲がちょびっとラクに弾けるようになる。
ただ、効果を実感できるまで、やっぱり2年ほどはかかったかな。
けど、「ある動きに特化した練習」ってのは、徐々にだが確実に効き目はあるのよ。
しかし、母にはいまさらなんの練習も必要ないか。
つまらない単調な運動をイヤイヤやるよりも、老いの成り行きにまかせたほうがいいだろう。