O先生が行ってしまったあとは、適当にぼーっとしていた。こういう飲み会は、それが楽しいから来ているひとばかりだと思うが、やっぱり自分にはまったく合わない。それでも、日ごろ縁のない異次元の世界を観察するつもりで、みんなの軽い話を聞くともなしに聞いていた。
やがて懇親会はお開きになって、私は同じテーブル席にいた女性二人といっしょに駅に向かった。三人でゆっくり歩いているうちに、二人の女性はぽつぽつ本音をもらしはじめた。二人とも結婚しているひとなんだが、ひとりは旦那さんがほとんど働かなくて、実質彼女が生活費を稼いでいるとのこと。もうひとりは、旦那さんの浮気に困っているらしい。
どちらも結婚して十数年は経っているそうだから、もう長い間の悩みのようだ。チラッと聞こえたが、もっとアンダーグラウンド的な悩みもあるようだ。私は人付き合いが皆無なので、「結婚しているヒト」というだけでもやっぱり異次元の住人さんに思えるし、ましてやその先の複雑な悩みとなると、ただ驚愕するだけで想像もつかない。
失礼なんだけど、うわあ、ヒモみたいな男性っているんだあとか、浮気されちゃって困っているひとって実在するんだねとか、非常に稚拙な感心をしてしまった。その手の人間関係で悩んだことのない私からすれば、え? そんなにヒドい旦那さんだったら離婚したらいいのにと単純に思ってしまうのだが、そうは簡単にいかない事情とか気もちがあるから、長年悩んでいるのだろう。
みなそれぞれヒトには言えない重荷を負っているんだ。ふと思ったんだが、それだからこそ飲み会の席では、みんな何事もないかのように明るくふるまって、冗談を言い交して笑い合っているのだろうか。傷があるのはわかっているよという暗黙の了解のうえで、それでもオトナだから演技ができるのかもしれない。なぜかそんな気がした。
さて、ホテルに戻ると心底ホッとした。引きこもりがデフォルトの私は、長時間ヒトといっしょにいると疲れ切ってしまう。大浴場に行くとまたヒト疲れしそうなので、部屋のバスに入る。去年オープンしただけに、ユニットバスのデザインも洒落ている。私はインテリアが好きなので、いいデザインに囲まれていると幸せになれる。
風呂上りはダブルベッドに大の字になってくつろいでいたが、私の悩みなんて大したことないなあとあらためて思う。なんといっても母ちゃんひとりだけの悩みだ。N先生が言われていたが「お母さんの悩みって、じつはやっぱり愛情がベースにあるから、解決してしまえばなんてことないんですよ」
そうだよね、私も母も本当のところは甘え合っているだけなんだよね。私は、その「甘えていられるコドモ」というポジションの居心地がよくて、ずっとオトナになれないんだなあ。そんなことを思いながら眠りに落ちた。
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