母の転倒は、9月に1回、10月に1回。
そして、今月11月は、もうすでに2回だ。
母は「もうコロばないように、ぜったい気をつける」と言っているが、いやあ、気をつけてなんとかなるモンじゃないような。
骨折が怖いんだよねえ。
折れた箇所にもよるだろうが、寝たきりになっちまう。
母はサ高住に入所していたとき、去年1月、背骨を圧迫骨折して、3ヵ月寝たきりだったらしい。
その後、ほんの少しずつ歩きはじめて、ようやくおぼつかないながらも、歩けるようになったという。
とくだんリハビリも指導してもらっていない。
母なりに、歩く練習をして、やっとギリギリ歩けるまで、もっていった。
よくまあ、たったひとりで、そこまで回復できたなあ、と感心するし、かわいそうにも思う。
だから、私と同居するからには、もうそんな目に遭わないように、介護もできるだけ工夫したいと考えていた。
それで、朝イチのトイレだけでなく、日中のトイレなども、私が付き添おうか?
そうしたら、母が、
「そこまでしてもらわなくていい」と言う。
私「でも、あぶないよ。
コロぶ危険を、できるだけ避けたいからね」
「昼間はだいじょうぶだよ」
しばらく押し問答になった。
私は、イラ立ってきた。
これだけ転倒しているのに、なにがだいじょうぶなもんか!
骨折してイタい思いをするのは、てめえじゃん?!
……じゃなくて、骨折ばあちゃんを介護して困るのは、あたしだったよ~
おいっ、あたしが迷惑するから、てめえ、金輪際コロぶなよっ?!
ってのが、自分のホンネだった。
そうと気づいたら、あきらめがついた。
もういいや、あんたがホネ折ろーが、寝たきりになろーが、あたしゃ関係ねえ。
母がどうなろうと、自分にできる範囲で介護するだけ。
そもそも「転倒 → 骨折 → 寝たきり」は、高齢者の標準コース。
王道である。
自然の摂理である。
そんな大河のごとく悠然とした流れを、私が変えようだなんて、そりゃ不可能に決まっている。
それに、母自身が「昼間は、ひとりでトイレに行ける」と言っているんだ。
じゃあ、それを信頼しよう。
……とまた、エエカッコしてもうたが。
ほんまはね、ひとりで歩いて、コロんで骨折したら、う~ん、キビしいのう。
そのときに、私が「ああ、そうなんだ」と、あわてることなく、心おだやかに、その事実を受け入れられるか?
先日、内科クリニックへ行ったとき、つぎのクリニックに変わるために、紹介状を書いてもらった。
これまで行きつけの内科クリニックが、転居して、遠くなったからだ。
私は、病院で紹介状をもらうと、ウチに帰ってから、こっそり中身を見るというクセがある。
だいたいドコも封が甘くて、そうっと開ければ、カンタンにはがれる。
母の紹介状も、コソッと見てみたら、病名がひとつ増えていた。
「治らない病気」が、またひとつ加わっていた。
私も見なかったことにしたい、イヤな病気だった。
コレは、母にはナイショだな。
クリニックの先生だって、その病名を、高らかに宣言しているわけじゃないし。
私は、紹介状を封筒に戻し、きちんとノリづけしておいた。
少しずつ「ほころびていく母」をどないしましょかね?
などと、思いめぐらせてしまったが、
うん、母がやりたいようにやってもらうのが、いっちゃんかね。
私は、母から頼まれたことだけ、やればいい。