母の食欲がめっきり落ちてから、12日間が過ぎた。
しばらくは、室内を移動するのに、シルバーカーを使うのもムリだった。
そのときは、キャスター付きのイスを、私が押して、トイレや洗面所へ連れて行った。
ただ、一日だけ、母が「自分でトイレに行きたい」というので、その日はそうしてもらった。
けれども、トイレまでなんとか辿りつけても、ズボン類の上げ下ろしが、とてもむずかしい。
まあ、ズボンの上げ下ろしってのは、片手でどこかにつかまりながら、もう一方の手でヤるのは、そりゃしんどいわ。
いまは寒くて、モモヒキもはいているし、余計タイヘン。
結局、トイレのときと朝晩の着替えのとき、ズボン類の上げ下ろしは、もうすべて介助が必要になった。
靴下の脱ぎ履きも、すでにむずかしいねえ。
上げ下ろしのとき、手すりにつかまってもらっているが、その手も小刻みに震えている。
足もしっかり立てていないので、フラフラ揺れて、いまにも倒れそうだ。
たぶん、あまり食べていないから、いっそう力が入らないんだろう。
こういう状態なのだが、本日は歯科クリニックへ行くことになっている。
訪問歯科もあるのだが、母はどうしても、これまでかかっていたクリニックへ行きたいという。
歯の詰め物が取れてしまい、新しい詰め物が出来上がっていて、それを詰めるだけなので、うん、まあ、そりゃ行きたいよね。
だが、歯科クリニックがあるビルは、すぐ横に自家用車を停められない地域だ。
なので、前回は「ウチ → 自家用車 → コインパーキング → 私がタクシーを拾う → タクシー → コインパーキング車内で待つ母を乗せる → タクシー → 歯科クリニック」という手順で通院した。
しかしねえ、もう今日は、母がこれだけの乗り降りは、まったくムリ。
ほんとは、介護タクシーで、部屋内から車椅子で乗降するのが、いっちゃん安全なのだが、やっぱり母は「介護タクシーはイヤ」とのこと。
しかたがないので、一般タクシーで、ウチからクリニックへ向かうことにした。
が……
玄関を出て、タクシーへ乗り込むとき、タイヘンなことになった。
部屋から玄関まで移動するだけで、母は体力を使い果たしたらしく、どうしてもタクシーの座席に乗り込めない。
そのうち、とうとうガックリとヒザが折れ、私はとっさにしゃがんで、自分の太ももで母の腰全体を受け止めた。
うおっ! こんなんで50キロを支えるのは、さすがにキツいっ!
その状態で、母も私もまったく身動きがとれなくなってたら、あわてて運転手さんが手伝って、なんとか座席に押し込めてくれた。
ほんとは、そんな介助をお願いするには、介護タクシーじゃないとあかんでしょうに。
それにしても、コレがウワサの「高齢者のヒザ折れ」か!
ユーチューブで見たことはあるが、とうとう母にも訪れたかと感慨深い。
タクシーから降りるときも、運転手さんは、いろいろと配慮してくださった。
歯科の入り口にある段差も、母がどうしても上がれなくて、ふたりで苦労していたら、近くにいた女性が、母の片手を支えて手伝ってくれた。
「私も、祖母がそうでしたから」と、そのヒトはにっこりしてくれる。
歯科のなかでも、スタッフさんのお世話になりっぱなし。
てか、もうさ……
こうなったら、車椅子を検討しないと、移動できねーよ。
だが、私も手や腕が痛いので、車椅子介助も気がすすまない。
さて、帰りのタクシーは、行きの運転手さんに、ショートメッセージを送って、また来ていただいた。
このかたは、介護福祉士やヘルパーの資格も持っておられて、たぶん一般タクシーを越えたサービスを、してくださったんじゃないかな。
ようやくウチに戻ったが、母は疲労困憊。
それでも、やっと「なにか食べておかないと」と言ってくれた。
うどんなら食べられそうというので、一玉の3分の1ほどを、飲み込むように、ガマンして食べてくれた。
そんな様子を見ていると、なんだかあわれにも思う。