起きたのが10時だった。今夜は合唱の初回練習があるし、シャワーを浴びてから会社に行ったら、仕事をはじめたのが午後1時だった。遅い。遅すぎる。でもまあ、期末処理がどういうものか、去年のメールの痕跡とかから推測する。ホンマね、どの仕事も手探り状態だからつらいねえ。
しかし、今日は午後4時半には仕事をやめて帰宅した。軽くごはんを食べてから、合唱の練習会場である地元ホールに向かう。ウチから歩いて25分のところ。こんなクソ田舎なのにホールはりっぱだ。練習場はホールのホワイエで、イスがみっちり並べられて大勢のひとでごった返していた。ホワイエって、ホールの入り口から入ったあたりの広いところで、ヒトがタムロしている場所のことね。
私は、1ヵ月前に申し込んだときはとりあえずアルトにしたんだけど、じつは合唱の経験がないのでようわからん。あとでネットを見ていると、どうやら自分はソプラノっぽい。なので、急遽「あのう、ソプラノに変更できますか?」と頼むと、「ソプラノⅡ」になった。あっそ、ロ短調ミサ曲ってソプラノがふたつあるんだ。
楽譜もその場で購入。ベーレンライター版なので、あららドイツ語。日本語なし。緊張しながら席に着いたが、隣の女性が気さくに話しかけてくれた。たぶん同年代だと思う。そのひとNさんは「三年前に私もまったくはじめてでここに入ったんです。そのときの曲がマタイ受難曲だったから。私、バッハが大好きなんです」とのこと。
おわぁ……こんなヒト、やっぱりおるんやねえ。私もマタイ受難曲が超絶好き。Nさんは近々パイプオルガンも習いに行くそうで、私もその講座は知っていたけど、いやあ、バッハが好きなヒトってこんな田舎にもおるんやねえと感慨深かった。バッハは足鍵盤の超達人なので「足鍵盤、どうですか?」「私はエレクトーンもやっていたので」「じゃあ、大丈夫ですね」とすぐに話がはずむ。先月目を付けていたアルト美人も来ていたよ。
指導される先生は、先月の演奏会でも見覚えのある男性だった。発声練習のあと、いきなり全パートで歌うように指示される。ええ~っ?! 私、さっき楽譜もろたんやけどっ?! どうやらみんなは以前からすでに予習、いや「音とり」を済ませているらしい。音とりとは、自分のパートを歌えるように楽譜を読み込んで練習しておくことだ。
しかたがないので初見で歌う。必死こいて音符を追いかける。でも、冒頭の4小節だけでも、感動で気が遠くなった。え~っ?! この私がロ短調ミサ曲を歌っているよ! これは夢なんじゃないか? いや現実だ! ありえへん、おかしい、幻か? いや、どうでもいいからソプラノⅡの音符を読まないと!
幸い隣のNさんが正確な音程で大きな声を出してくれるのでついていきやすい。あとで聞いたが、Nさんはピアノ歴が長くて絶対音感もお持ちらしい。あると便利な絶対音感ね。アレがあって楽譜が読めたら、そりゃもうスイスイ歌えるっしょ。
それで、先生の指導もわかりやすいし、ユーモアたっぷりだし、ものすごく興味深い。けど、けっこう専門的だよね。「その『ツィス』の音」と言われてわかる? なんだっけ、ツィス? さっきグーグル先生に尋ねたら「ドのシャープ」のドイツ語らしい。
「そこ、和声を感じて」と言われても、はあ、和声がわかるようでわからん。でも、わからんなりにすっごくおもしろい。楽しい。「ただでさえロ短調で暗いんだから、低い音で暗くならないっ! 明るい声でっ!」「バッハは汚い和音をすごく使っている。意識してソコは汚く」 うん、そうそう、そういう話を山ほど聞きたかったんだよね。
この世にこんなに楽しい世界があったとは……と茫然としているうちに、午後6時半から9時までの練習があっという間に終わった。まだぼーっとしている私に、Nさんは同期のお友だち数人を紹介してくれた。へええ、みんな音楽が好きで来てるんだ。びっくり。
夢見心地でウチに帰った。もう今日一日で世界が終わってもいいよ。
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