私は持病があるので、4週間に1度通院している。
母、入院まえは、かろうじてひとりでトイレに行けていたが、退院後はもうダメ。
ポータブルトイレをベッド脇に置いたら、私の留守中でもひとりで行けるけど、まだポータブルトイレはイヤだと言う。
そういうのはね、安全とか手間よりも、母本人の好みが大切だ。
なので、私が通院しているあいだ、1~2時間に1度、ヘルパーさんにトイレ介助に来てもらうこととなった。
母も以前は「通院そのものをやめてほしい」と気難しかったのだが、いまはすっかり変わり、
「いいのよ、緊張するけど、ヘルパーさんに来てもらうわ」と言ってくれた。ありがたい。
玄関の鍵は、キーボックスに入れておき、キーボックスはガスメーターの管に取り付けておく。
そういうサポートのおかげで、クリニックへの通院ができるようになった。
順調に診察、薬受け取りが終わり、さあ、クリニックの駐車場からクルマで出ようとしたとき、事件が起きた。
駐車場から道路に出る段差で、急にクルマが動かなくなったのだ。
ガッタンと段差を落ちたあと、アクセルを踏んでもまったく動かなくなった。ぶはぁっ!
あわてて、バックにしてみても、これまた動かない!
なんですか、ブイ~ンと空回りしてますな。
いかん、落ち着こう。
いったん外に出てみて、ぐるっとタイヤを見て回る。
なぁるほど!
右前輪が、3センチほど宙に浮いているじゃねーかっ?!
ふうん、前輪がひとつでも浮いていたら、そっかー、クルマって動かなねーんだ!
こりゃ、自分の手に負えねえ、と判断して、SBI損保のロードサービスに電話した。
いやあ、ロードサービスなんて生まれてはじめて。
すぐに電話はつながり、私が「コレコレこういう状態で、クルマがさっぱり動かねえ」と訴えると、
「わかりました。あらためて担当者からお電話を差し上げますが、およそ40~50分はかかります。
その後レスキューに向かいます。牽引は無料です」とのこと。
そだね、牽引してもらったら、そりゃ動くよね。
だけど、動くようになるまで、ものすごく時間がかかるよね?!
ヘルパーさん、今日は2回しか頼んでいないから、超ヤバくないっ?!
母は固定電話を持っているが、もう長らく電話に出ることもないし、歩けないから取りにいけない。
私から母に、事情を連絡することもデキない。
ヤバいヤバい、大ピンチ!
そしたら、ふと思ったんだ。
浮いている前輪の前に、なんかカマしたら動くんじゃねえの?
で、あたりを見回したら、コーンの重しが目に入った。
▼これ! この下の黒いヤツ!
ほんと「さあ、どうぞ使ってちょーだい!」と言わんばかりに、すぐそばにあった。
なので、下の黒いヤツを持ち上げ引き抜いて、浮いている前輪の前にギュッと挟んでみた。
さぁて、動くかな?とアクセルをそっと踏んだら、コロリンコンと乗り越えて、難なくふつーに動いたよっ!
はあ、感動した!
いや、スゴいな、こういう筋書きもあるんだな、と感心した。
すぐにクルマを道路脇に停め、コーンの重しは元に戻し、ロードサービスへキャンセルの電話を入れた。
再出発まで20分かかったが、ウチに帰って、母の部屋をのぞいたら、スヤスヤ眠っていた。
ふう、ウマくいったなあ。
母ちゃんの目が覚めたあと、
「さっき、こんな目に遭ったんだよ」と話していて、でも、コーンの重しなんか知ってるかな?と思ったら、
母「あ、わかるわかる、あの黒いゴムみたいなのでしょ?」
うんうん、よく知ってるなあ。
なんかさ、ウチ帰ってさ、すぐに話し相手がいるって、すごくうれしいね。
90で要介護4なのに、ふつうに話がデキるって、それこそ感動する。