山登りにハマッていたのは34才から47才まで、いまから思えばうんと若いから、カラダなんて無制限に動いていた。
いや、じっさいにもともとは貧弱なので歩く速さがふつうよりずいぶん遅いのだが、荷物を背負うのはそこそこ問題なくべつに不便は感じなかった。
で、日ごろなにかトレーニングをしていたか?というと、なにもやっていなかった。当時はまだ記憶力もおとろえていなかったので本を読めたから、山関連の本はたくさん読んだ。山の雑誌も毎月欠かさず買うし、ガイドブックも地図も本屋ができそうなほど買い込んでいた。
登山のためのトレーニングってのも、雑誌でよく特集になっていたが、意外とねえ、「とにかく毎週山に登るに限る」という結論だったりする。毎週末実地訓練するのがいっちゃん効果的で、それやってさえいれば、登り下りに必要な身体がちゃんとできあがるというのだ。
34才でハイキングをぼちぼちはじめて、ああそうか、でもけっこうすぐに日本百名山登るぞ!になり、百名山を10個登るか登らないかのうちに目標を日本三百名山に変更したから、難易度なんておかまいなしに底が抜けたように登っていたかね。
んで、そこで思い込んだんだよ。
「登山を制するためには、よけいなトレーニングは不要で、登山さえやっていればだいじょうぶ」だって、堅く信じてしまった。
さぁて、いまやウチのマンションの階段すら登るのがおぼつかないババアになってしもうて、かろうじてできる運動はピアノだけである。そのピアノだって、指が動かなくてずっと難儀している。
まあ、ピアノを弾くためには、いろんな要素が必要だ。
そのひとつとして「指が回る」って、やっぱり重要なんだなあ。ある程度そういうのがパリパリできないとダメなんだなあと痛感している。どんな曲にもその曲にふさわしいテンポがある。そこからかけ離れてノッソリした演奏というのは、聴いているひとにかなりシンボウしてもらわないといけない。
2年前にツェルニー30番をはじめたときは、三輪車ぐらいのテンポでしか弾けず、たぶんね、ぜんぶおまけで合格にしてもらったんだと思う。
しかし、去年8月からツェルニー40番に入った。さすがに三輪車は卒業したかったが、なかなかテンポが上がらない。
けれども、なぜツェルニーのテンポが上げられないのか? その理由は明々白々だった。
いやね、私はバッハにかまけてばかりで、ツェルニーはついでぐらいにしか練習していなかったからね。ツェルニーってバッハの2割ほどしかやってないよ。つまり、ツェルニーができないのはごく単純に練習不足だからである。それだけ。
バッハが好きだからバッハばっかし練習しているというのもあるが、じつは上に書いた「山登りの鉄則」をうっかり当てはめてしまったのだ。
「バッハを制するためには、ツェルニーは不要で、バッハさえやっていればだいじょうぶ」と思い込んでいたのだ。
ところが、である。
本日、それは大まちがいだと判明した。
ここしばらくツェルニー40番の8番を優先的に練習しており、毎日1時間以上さらっている。メトロノームを1個ずつ上げたり下げたり、かつてないほどツェルニーばかりねちっこくやっておるのだ。ま、タカタカが好きなのでツェルニーも楽しいよ。
メトロノームも、さいしょ(2月23日)は♩40でしか弾けなかったのが今日は♩100で弾けるようになった。まだまだ遅いけど、ふう。
さて、今日は前にすでに終わっているバッハを遊びで弾いてみた。
▼バッハ:フランス組曲第6番アルマンド
そしたら、かなりパシパシテケテケ弾けてしまったのだ。まあ、音符が読めないとこもぎょーさんあったけど、わかるところはタタタタ、トトトトと、以前とはくらべものにならないほど指が小気味よくはまるようになっていた。
へえええ!
ツェルニーって、ものすげえ効果あるんだねええっ!!
でもさあ、このアルマンドは去年12月課題でやっていたとき、それこそツェルニーはそっちのけで、こればっかり鬼のように練習してたんだけどね。大好きだし、明るくて楽しい曲だから、ケツで拍子きざみながらエンドレスで練習しまくってたんよ。
それなのに、ツェルニーのほうがアレだなんて!
驚愕の事実を整理しておこう。
1.バッハのタカタカをおもくそ練習しても → バッハはヘタクソのまま、かつ、ツェルニーもヘタクソ
2.しかし、ツェルニーをおもくそ練習すると → ツェルニーはちゃんとマシになる、かつ、バッハまでマシになる!
なるほどねえ、ツェルニーってすごいんだねえ。生まれてはじめて実感したよ。
つまり、山じゃねーんだから、「練習曲は、ちゃんとしっかり練習すると、ほかの曲もちゃんと弾けるようになる」っつーことなんだね。
ちなみにモーツァルトとショパンも試してみたけど、ち、ちがうわあ。前とちがって指がパラパラ分かれてくれて弾きやすい。
あんれまあ、こんなに効き目があるんだったらもっとツェルニーやるべ。
バッハのためにね。