ふつうなら「朝、目が覚めて、うんぬん」でよろしい。
私には「朝」がない。
安定して昼夜逆転しているからだ。
「昨夜、寝たのは」とも、書けない。
「寝た」のは、朝5時34分で、「起きた」のは、昼12時02分である。
私は、時間を記録するのが好きだから、すべての事柄について、タイムログを付けている。
「Toggl」というアプリが、パソコンブラウザで使えるから超便利。
▼「Toggl」で記録した「睡眠」
起床│早くて8時46分、遅いと12時57分
ぷー太郎なんだから、べつに何時に起きてもかまわない。
しかしねえ、グランドピアノを弾くのに支障がある。
音出し可のマンションだが、いちおう夜は9時までにしている。
まあ、夜10時でもバリバリ弾いているひとはおるし、そんなに気にしなくてもいい。
でも、起きるのが昼過ぎだと、あっという間に夜になる。
なんだかんだでズレ込んで、結局電子ピアノで練習していたりする。ばーか。
だから、ピアノのために、昼夜逆転をちょっとずつでも改善したいのだが、一向に実現しない。
タイムログ、24時間ぜんぶ記録するのが、ほんと趣味なんだけど、なんの役にも立っていない。
見返すと、「休憩」と「雑用」が一日あたり8時間とか9時間とか、おまいは「休憩」するために生きとるのか?
いま現在、そんなに張り切って休憩しなくても、どうせ将来「永遠に休憩しっぱなし」の状態になるのにさあ。
で、今日昼過ぎに起きる直前、めずらしくはっきりとした夢を見た。
夢のなかで、私は、とても急な坂道を降りていた。
あれは、金剛山の念仏坂だな、たぶん。
金剛山の登山道では、いちばんかんたんなのが念仏坂だ。
コンクリで固めてある坂道で、小さな子どもでも行き来できる。
しかし、上のほうはたいへん急な坂で、下るときは、つま先立ちしてるみたいになる。
その急な念仏坂を、私はゆっくり降りて行った。
坂道は、どういうわけか非常に汚れていた。
雑多なゴミが散乱し、ところどころヘドロ状の汚物までぶちまけてある。
そんなモンですべらないよう、足元を確認しながら、私は一歩一歩慎重に下る。
とちゅう、酔っ払いのおっさんが横たわっていた。
ああ、このおっさんが吐いたゲロで、こんなに汚れているんだな、と思った。
私は、おっさんのほうを見ないようにして、できるだけ急いで、けれども用心深く通過した。
すると、下のほうから、女のわめき声が聞こえた。
その女は、道が汚くて歩けなくなり、立ち往生していた。
私は、また知らん顔して通り過ぎるつもりだったが、なぜか、その女の名まえが「春子」だとわかった。
女は「もう歩けない。こんなとこで滑ってころんだらどうすんだよ」と、しかめ面をして柵につかまっていた。
私は、かなりイヤだったが、しかたなく女の手を取って、ゲロまみれの道をまたゆるゆると降りはじめた。
背の高い大柄な女で、手は大きくがっちりしていた。
大きな手の女は、ひとりでブツブツ文句を垂れていた。
こんなに大きな手を持っているのに、なんの文句があるんだろう。
私は聞こえないフリをしていた。
ようやく下まで降りると、女はひどくよろこんで何度もおおげさに礼を言う。
そんな様子を見ていると、だったら、手を引いてあげてよかったかと思った。
そこで、目が覚めた。
私は、うつ伏せ気味に寝ていた。
その私を、「もうひとりの私」が上から見ているのに気づいた。
「もうひとりの私」は、私のことを愛おしく思ってくれていた。
ふとんのなかで縮こまっている私に、覆いかぶさってくれようとしていた。
そんなにも大事に思ってくれるのか、と私は少し驚いた。
けれども、私自身が、それほど「大切な存在」であるなら、もっとピアノを弾きたいと思った。