日中はピアノを弾けていたのに、夜8時ごろから、右手がぜんぜん動かなくなる。
まあ、たまにあるんだけど。
右手ではトラックボールも触れなくて、左手で動かしているうちに、こんどは左手がつってきた。
わわ、両手が使えない。
すごくヤだなあと思ったが、こういうときもあるか。
パソコンの文字入力は、音声でやっている。
でも、こまかい修整は、トラックボールで位置決めしないとできない。
それもデキないから、机のうえに置いてある台に両手を乗せて、しばらくぼーっとしていた。
台はね、ネイルとかやるときに使うものらしい。アームレストっていうんだな。
10センチぐらいの高さ。アマゾンで買った。
この台のうえに、両手を投げ出しているとちょっとラク。
ああ、モーツァルトの新曲、ちっとも練習できていない。
それが気になるけれど、まあ、老体いたわるのを優先して、ひたすらぼーっと。
2時間ほどしたら、マシになってきて、そうっとトラックボールを動かせるようになった。
手、使えないのはしんどい。
でも、そうだなあ、山では「松葉杖」使いながら登っているひと、いたんだよね。
北アルプスの「霞沢岳」(かすみざわだけ/標高2646m)で出会った。
険しい山で「鎖場」という、鎖を頼りに崖ぎわを伝い歩く難所もある。
てか、上り下り合計8時間以上かかったルートだったかな。
そのちょうど「鎖場」で、向こう側から、松葉杖を突きながら登ってきた女性に出くわした。
ものすごくびっくりした。
かなりマイナーな山に、松葉杖を使って単身で登ってくるとは、なにか事情があるのかもしれない。
私は、すれちがい可能な場所で隠れるように待機した。
その女性が下を向いたまま近づいてくる。
急におどろかせてもいけないので、私は小さめの声で「こんにちは」とだけ言ってみた。
そのひとは顔を上げずに「こんにちは」と返して、ゆっくりすれちがっていった。
松葉杖を常用しているひとでも山登りをする、というのは、登山雑誌で知っていた。
急斜面の登りだと、先に松葉杖を上のほうに放り投げておいて、自身は斜面を這い上がり、また松葉杖を投げて、また這い上がり、を繰り返すそうだ。
すごいなあと思っていたけど、じっさいに出会うと、どうしたんだろう、ほんとにだいじょうぶかなあと、複雑な気もちになった。
しかし、それだけ苦労してでも、あのひとには登る理由があったんだ。
いま私は、そこまでタイヘンじゃないよね。
いつも手に不具合があるけど、だましだましピアノを弾きつづけていられる。
弾いている限り、ずっとオカしい。
これ、弾かなかったら、もちろん治る。
過去に何回も「弾いて痛いから → 弾くのやめる」ってのを繰り返してきた。
まだピアノのレッスンを再開する前ね。
電子ピアノでバイエルを弾いて、すぐに痛くなって、すぐやめる、そして3~4ヵ月すると治る、また弾く、また痛くなる、またやめる、というのを何回も。
レッスンを再開してからは、多少オカしくても弾いてきた。
まあ、完全に手が使えなくなることはなかったから。
次の日には、きっとマシになっているだろうから。
で、弾いたら、またすぐオカしくなるだろうけど、それでも弾くよね。
松葉杖で霞沢岳に登れるんだから、ピアノぐらい弾けるさ。