不動産屋さんいわく、
「休みの日でも、ほぼ一日中ピアノの音が聞こえるので、入居者さんのひとりは体調を崩しているんです。
なので、入居者さんが部屋にいるときは、弾かないでほしいのです」
私「う~ん、そうですか、おっしゃることはよくわかりますが、その入居者さんは何号室のかたですか?」
不動産屋さん「それは、個人情報なのでお教えできないのです」
まあ、そうだろうね。
私「では、そのかたが、いつ在宅か不在か、確かめる方法はないんですね」
不動産屋さん「そうなのですが」
う~ん、う~ん、不動産屋さんも、私にそう伝えるしかしょうがないよなあ。
その具合を悪くしている入居者さんに謝りたいとも思ったが、どうしようもない。
話合いをすることもできない。
ただ、「自分がすっごく迷惑をかけている」という自覚は、ずっと前からあった。
というのも、この賃貸マンションは「グランドピアノ可」と大家さんはOKしているものの、なにか防音対策がされているわけでもない。
鉄筋造でもなく、ふつうの鉄骨造のマンションで、ピアノの音はけっこう響く。
とくに隣室で弾いているピアノは、何の曲かまではっきりわかる。
で、私は、トシ取って指の関節が痛いもんだから、30分練習 → 30分休憩 → 30分練習 → 30分休憩……というサイクルだ。
なので、3時間練習すると、結局6時間以上ピアノが鳴っているような感じで、そりゃ迷惑に決まっている。
私自身も「聞きたくない音」は、絶対にイヤな性分なのだ。
自分が弾くからしかたがないけど、遠くから小さく聞こえるピアノの音でも、ほんとは不快に思う。
さて、その「体調を崩しているほど深刻な入居者さん」は、たぶん隣の部屋だなと見当がついた。
隣の部屋は、3月に入居者が変更になったのだ。
以前の入居者さんは、たまにピアノを弾いていた。
ごくたまに。月に1回ほど。
だから、私もそんなに気兼ねしていなかった。
しかし、3月にそのヒトが引っ越しして、そうだ、そのあとに入ってきたあのコだな、苦情は。
だって、不動産屋さんからの電話が4月29日だし。
そっかー、隣か……隣の女のコか、きっと18歳のあのコが困ってんのか。
ココのマンションは「女子大生専用マンション」で、それでなくても、私みたいなババアが入居しちゃって肩身が狭かった。
だのに、還暦のババアが18の女のコをそんなに悩ませるなんて!
じゃあ、もう弾くのはムリだな、丸聞こえだもんな。
というわけで、その日以降、グランドピアノを弾けなくなってしまった。