ふう。
たしかに「自転車カバー切り裂き事件」は怖ろしい。
もはや「おまわりさん案件」だよね。
けどなあ、コレってさ、「すごく遠いところからやってきた人物」のしわざじゃないような、気ィせえへん?
ちなみに、ゴミ屋敷お母さんは、あれこれ情報提供もしてくれる。
それによると、「道路をはさんで向かい側に住んでるおっさん」も、かなりヘンなおっさんで、このあたりにやってきては、いろんな悪さをするらしい。
その道路って、かなり広い道路でわりとクルマも多いのだが、その道路をわざわざ渡って、ここらへんで「おいた」をするそうだ。
う~ん、こういう状況だと、なんか「すんごい犯罪」ってワケじゃないしねえ。
それに万一おまわりさんなんか、やってきたら、ご近所さん全員に丸バレだよね。
ゴミ屋敷親子さんも謎男さんも、昼も夜もずーっとウロウロしているから、そんなの、すぐわかっちまうよ。
で、そもそもあたいは、なんでココに引っ越してきたんだっけ?
初心に戻ろう。
ココさあ、大家さんが「グランドピアノ、弾いていいっすよ♪」っていうから越してきたんじゃんっ?!
けど、弾けそうもないじゃんっ?!
ふう。
私はまず、不動産屋さんにラインした。
「いろいろ(音が丸聞こえ、ケンカ、覗き、切り裂き等)ありすぎて、ピアノを弾けそうにありません」
その「いろいろ」もある程度書いたら、
不動産屋さん「あのゴミ屋敷に、だれか住んでいるんですか?」
そうそう、住んではりまっせ、親子で。
私、なんか慣れちゃって、不動産屋さんの驚きが新鮮だった。
不動産屋さん「いちど見に行きますね。ピアノの音も、僕が外で聞いてみます」と言ってくれた。
そりゃあ、助かる!
翌日、不動産屋さんは来てくれた。
まず私は、あたりをキョロキョロうかがいながら、付近を恐る恐る歩いて、不動産屋さんに「どの家にどんなヒトが住んでいるのか」「だれとだれがケンカばかりしているのか」等を小声で説明した。
不動産屋さんはゴミ屋敷を横から眺めて、あらためて、
「ココ、住んでいたんですねえ」と感心していた。
幸い、だれにも出くわさなかったので、不動産屋さんといっしょに、急いで私のウチに戻る。
さて、それではピアノの実験。
窓はもちろん、雨戸も閉める。部屋の扉も閉められるモノはぜんぶ閉める。
不動産屋さんは、私のウチの裏手、つまりゴミ屋敷との境目で音を聞いてくれる。
私は、引っ越してきてから、はじめてピアノを弾いた。
無難に、ハノンを大きめの音でポンポン鳴らしてみた。
ひと通り弾き終わり、不動産屋さんに「どうですか?」と尋ねる。
すると、不動産屋さん、
「僕、スマホで録音してみましたよ」とのこと。
おお!
すぐに再生して聞かせてもらった。
しかし、予想通り、丸聞こえだった。
んなもん、スキマだらけのウチじゃけえ、窓だろーが雨戸だろーが、なに閉めようが、はっっっきりぜんぶピアノの音は聞こえまくっていた。
「これじゃ、弾けませんね」と私。
不動産屋さん「裏手に、板かなんか置いてみるとか」と言われるので、ふたりで裏側を見に行った。
まあ、板を置くぐらいでなんとかならないんじゃ……
裏手は、ゴミやガラクタが足の踏み場もないほど散乱している。
ゴミを踏んづけながら、少しばかり話をしていた。
すると突然、ガシャンッ!という鋭い音が、背後から聞こえた。
ゴミ屋敷の南側から聞こえたように思えた。
不動産屋さんも私も、思わず顔を見合わせた。