じつは、こんどの新居、非常に気に入っているコトがひとつある。
それは「家賃の安さ」だ。
なにしろ「月18,000円ポッキリ」っすよ!
1日たった600円で、雨風しのげて、便所風呂付きアパートっすよ!
いやあ、むかしは、ウチに風呂なんて付いてなかったよな。
そうそう、19歳のとき、ちょっとだけ「風呂無し、共同便所」アパートに住んどった。
むかしはそんなモンやろ?
でもさ、そのころでも18,000円じゃなかったと思う。
ちなみに、そのアパートを契約するときに、生まれてはじめて「ハンコ」を買った。
100円だった。消費税なんておまへん。
で、どういうわけか、私は「ハンコなるもの」にまったく興味がない。
だから、そのときの100円ハンコを、それ以来ずーっと使い回している。
銀行印も実印も借金も、すべてそのハンコで統一してきて、気がついたら42年が経過。
私の保有している物品のなかで「現存する最古の物体」が、その100円ハンコである。
いい具合にアメ色に変色しており、こうなるとなかなかに愛着すら湧いてきた。
棺桶に入れてもらおう、頼むぞ、T子ちゃん!
いったい、このハンコでなんぼ借金してきたやら。
ま、踏み倒したヤツもようけあるけど。
借金取りの仕事してたから、「踏み倒し方」もくわしいのさ。
んで、新居の流しが詰まってる件ね。
ま、家賃18,000円だと、寛容になれるもんだ。
しかも、3点ユニットバスは、ちゃーんと水が流れるのよ!
詰まって本格的に困るのは便所だけど、それはジャバジャバ流れるから、流しぐらいええやんか?
便所で思い出したが、なんかだれかが書いてたベートーベンの伝記がおましてな。
ツェルニーって、ベートーベンの弟子でしょ?
そのツェルニーがまだ子どものころ、父親に連れられて、はじめてベートーベンの部屋を訪れたときのこと、あとでツェルニー自身が書いてたのよ。
そしたら、ベートーベンの部屋の片隅に、いまでいう「ポータブルトイレ」が置いてあったと。
私、それ読んだとき、あ、そうか、19世紀初頭(たぶん)なんて、水洗便所も下水道もまだなかったんだなって、感慨深かった。
てか、1931年生まれのピアニスト、ブレンデルが若いころでも、水道ない部屋だから、バケツで水汲みタイヘンっちゅーから、私がこんなに最新設備を使えるだなんて、まるで王侯貴族のようである。
ええ、ですから、あたくし、まるで公爵夫人のように鷹揚に、こんどのアパートの大家さんに、お電話を差し上げましたの。
「あのう、キッチンのお水、ウマく流れないみたいで困っちゃうわ」