ところで私は、人生経験が極端にとぼしいのでめったに酔っぱらいを見たことがないのだ。
ずっと前の会社で事務仕事をしていたとき、けっこうしょっちゅう宴会はあった。でも、そこの会社はめっちゃよく働くひとばっかしで、宴会やったあと、それからまた会社に戻って仕事するおっさんがほとんどで、そないに酔っぱらうほど飲むひとがおらんかった。
ただ、一回だけ少人数の宴会席で、ひとりのおっちゃんがすっげー酔っぱらってた。なにしゃべってんのかわからんようになってきて、さあもう帰ろうっつっても、自分で靴も履かれへんほどぐでんぐでんになってた。私は、そんなになったひと、生まれてはじめて見たから怖かった。
そしたら次の日、主任のおっちゃんが私に「春子ちゃん、男が酔うてるとこ、はじめて見たんやろ」言うてちょっと笑ってた。その主任さんは、私の世間知らずを知ってたから、いろんなことをようけ教えてくれた。
私は「男が」って表現にもビビッて、そうかあ、男のひとってたいへんなんやなあ、やっぱり仕事たいへんやからあんなになるまで飲んだりするんやなあとか思っていた。
これが酔っぱらいを見た1回目で、2回目の酔っぱらいは女やった。てか、それ妹ですねん。
まあ、妹は親のことを小学1年生のときに見限っていて、それ以降家族とはほとんど会話しなくなっていた。早熟でアタマのええコやったから、親も姉(私)もさっさと見切りをつけて、はたち前には実家を出て、数年に一度ぐらいしか戻って来なかった。
妹、なにせオトコのことしか考えてへんしね。→男を欲しいと恒常的に思っている女の「手順」
オトコの次に好きなのは酒やねん。なんか「飲む、打つ、買う」?! いや、それでいて働くのは好きだから「飲む、稼ぐ、買う」かね? だってこの前の前の前の前の(←T子ちゃん、合ってる?)彼氏に1700万円貢いでるから、マジでオトコ買ってるよな?
で、酒好きなのは知っていた。かなり前に飲みに行ったとき、酔いが回ってきたら、だれにいくら貢いだのかずらーっと書いたりしとった。あ、私は飲めないよ、もともと。
妹本人は「あたし、ザルやないねん。みんなに『おまえはワクや』言われてんねん」って豪語しとったが、その一覧表作成のときはそんなにグタグダにならずにウチに帰った。
しかし、2012年9月20日~23日(←デジタル日記を検索した)、妹がとつぜん私のところにやってきたとき、彼女めちゃくそ酔ったときがあってね。ほら駅の近くの居酒屋でさ。そもそも10年に1度ぐらいしか会わない姉なのに、なんで急に来て「須坂に住んでほしい」ってなったんだろ?
私はそのとき、いまのウチからわりと近いところに住んでいた。いまとおんなじ条件「音出し可」のマンションだ。いや、たまたまバイオリンをやにわにはじめて、そのマンションに引っ越した直後だった。だいたい「音出し可マンション」なんて音大芸大の近所しかないでしょ?
だから私は、やれバイオリンじゃピアノじゃ言うて、この某芸大の近くを出たり入ったりしてきたけど、まあみんなそれぞれにね、好きなモンがちゃうからね、それぞれに奇行を繰り返すんだよな。
ええと、なんだっけ? そうそう、つまり私はバイオリン弾くために引っ越したばっかりなのに、なんで「須坂に来い」って頼むんだよ? でさ、私が「ウン」って言わないもんだから、妹はそのころ付き合ってた彼氏にまで「私の説得」を頼んだんだよね。妹、その場で電話しよった。
そんときの彼氏さん、妹に「お姉さんがイヤがってるのにムリ言っちゃダメだよ」って言ってくれた。そしたら妹、たちまちシュンとなって「Hさんがそう言うんならそうする」だとさ。まあ、すなおでかわいいよなあ。
その日の夜、飲みに行ったら妹がおもくそ酔っぱらった。日本酒いっくらでも飲むんだよね。まあ、飲まない人間にはなにがどういいのかさっぱりわからん。そのうちゴキゲンになって大声出して、自分でスカートまくって、そこらへんにいる男にパンツ見せたりしてた。「こいつ、見せよるわ」とかみんな大喜びしとった。
とうとう閉店になったので、妹を引きずって帰った。足元おぼつかない妹を抱えて、そのときはまだ徒歩で帰れるマンションだったのでそんなに距離はなかった。しかし、コンビニの前を通りがかると、妹がこう言う。「ちょっと買おうよ」
「え?なに買うの?」
「へへへ、だからもうちょいやろうよ」
「えっ?! お酒はあかんよ。もうあかんて」
「へへ、もうちょっとだけ」
「あかんあかん!」
人生ふたりめの酔っぱらいに、私はドギマギした。えーっ? ニンゲンって酔ったらこないなるん?!
なんとかマンションに引きずり込んで、私のベッドに妹を寝かせてタオルケットをかけた。妹はすぐさま寝てしまった。その寝顔を見ていると、妹の望みどおり須坂に行ってあげたほうがいいのかなあなどと思ったりもした。(と、デジタル日記に書いてあった。)
3人目の酔っぱらいは、ある合宿セミナーだった。心理学のセミナーなんだけどね、ある男のひとがエラい酔うとりましてな、びっくりしたわ。
みんなで「〇〇さん、だいぶん飲んでるね」ってヒソヒソ話した。「やっぱりストレスかなあ」
以上、3名しか酔っぱらい症例を知らんので、私はFさんにこう言われても判断に困るんだよね。
Fさん「あたし、今日はだいじょうぶ。クルマで帰れる。近いしぜったいだいじょうぶ」